いきなり訪ねてきた謎の少女が、どうしてか必要以上に構ってくる
flaiy
訪ねてきた少女
高校一年の春。俺は、唯一無二の親友を失った。
交通事故だった。入学式が終わって一週間しか経っていない、登校中のこと。
ヘッドホンを着けて音楽を聴き、右手だけで開いた本を読みながら、俺は青になった横断歩道を渡っていた。その時、突然後ろから誰かに突き飛ばされ──直後、ズガーンッ!という爆発のような音が澄んだ空気の中に響いた。
俺は、その手に持っていた本を落とした。開いたまま落ちた本が、自然と閉じる。パタンという音が、命の終わりを告げているような気がした。
俺を助けたのは、その時頭から多量の血を流していた、俺の唯一無二の親友だった。
その後、俺は一度吐いて意識を失った。
次目が覚めた時には病院で、力の入らない体でなんとか辿り着いた病室で見たのは、真っ白な肌をした、もう二度と動かない親友の姿だった。そこで、俺はもう一度意識を失った。
そして、俺は葬式にも行かず、その一週間後には学校を無断欠席するようになった。
♢
カーテンは閉められ、一箇所を除いて真っ暗な部屋の中。
MMORPGにログインしたパソコンを操作して、俺はこの退屈な日々を送っていた。背もたれに全体重を預け、次々と現れる雑魚Mobを片手剣を持ったアバターを操作してバッタバッタと斬り伏す。
ぶっ通しで三時間は続けているため、そろそろ目と頭痛が限界に近くなってきていた。当初の予定よりも二レベル程多く上がっているから、そろそろ切り上げようか。
転移を使ってモンスターの現れない街へと戻った後、俺はパソコンの電源を落とした。
完全に暗くなった部屋をフラフラと歩き、壁にあるスイッチを手探りで押す。すると、天井にある半円のカバーで覆われたLEDライトが部屋を照らした。
「……日曜、午後二時か。夏休みも終わってるよな、そう言えば」
ここらで一つ、自己紹介をしておこう。
俺の名前は
趣味はゲームに読書にお絵かきにアニメ
彼女いない歴=年齢の童貞で、友達も
パソコンを置いてある机とは別の、もう一つの机を見つめる。そこには高校一年生の教材が整頓されて置いてある。今まで一度も開いたことがない……と、言うわけではなく、単に俺が少し
視線を向けたはいいが、珍しく三時間通してゲームを続けたものだから、頭痛が酷かった──いつもは一時間程度で少し休憩を挟む──ためにやる気が全く湧かなかった。ほかのことに向ける気力も残っていなかったため、寝ることにした。
「お兄ちゃん、ちょっと遊びに行って来るね」
「……ああ、いってらっしゃい」
部屋の外から話しかけてきた妹に、長らく喋っていなくて掠れた声で適当に返答する。階段を駆け下りる音が消え、ガチャリと玄関のドアが閉まる音がした。
今、家の中には俺一人だ。妹は今の通り出掛けたし、両親は一緒に買い物に出ている。もう四十も半ばだと言うのに、仲睦まじくてよろしいことだ。
ばふっと低反発マットのベッドへと倒れる。長時間同じ姿勢だったためか、凝り固まった全身の筋肉や関節が痛む。ただ、今学校に行っても変わらないだろう。休み時間にすることは、読書かトイレに行くくらいだろうし、結局はほとんど一日中同じ姿勢のままだ。なにせ、友達はいないのだから。
視線を右に向けると、ベッド脇に置いてある棚の上のキーホルダーが目に入った。黒みがかった剣のキーホルダーで、中三の修学旅行で買ったものだ。実を言うと、これには対になるものがある。白みがかった同じ形状のもので、うまくすればこれと組み合わせることができる。
対になる白の剣は昔の友達にあげたので、手元にあるのはこの黒剣だけだ。ただ、その白剣とこの黒剣が組み合わさることは、もう二度とないだろう。
「……っぐ」
胸に鈍い痛みが走る。ぶつけたわけでも、病気などでもない、
俺は、その白剣を与えた友人のことを考えると、こうして胸に痛みが走る。たまに吐くことも以前はあった。ただ痛いだけだと苦しいので、今は「記憶の
ピンポーン!
その時だった。普段鳴ることなどほとんどない玄関先のインターホンが、音を響かせた。
──何か配達か? でも、車の音はしなかったよな
少し不審に思いながらも、俺は応対するために部屋を出る。ヒキニートだとは言ったが、別に人との会話やちょっとした外出程度は何も問題はない。
俺の家のインターホンはそれなりに最新のものを使っていて、屋外の機器に取り付けられたカメラが映す映像を、屋内の機器で見ることができる。そこに映された映像を見ると、そこには俺と同じくらいと思われる年頃の少女が立っていた。
勿論、俺はこの少女を知らない。明るい茶髪のストレートヘアをしていて、目はくりっと大きい。身長はカメラの高さから推測するに、百五十センチ後半かそこらだろう。
少なくとも、中学までの知り合いにはこのような美少女の知り合いはいなかったはずだ。高校には入学式からすぐに引きこもりへとジョブチェンジしたので、クラスメイトの顔すら分からない。
今映像を映し出している機械にはマイクも付いていて、外の人と会話もできる。俺はマイクのボタンを押し、その少女へと話しかけた。
「どち……どちら様でしょうか?」
相変わらず掠れた声が出たので、多少失礼かもしれないが咳払いをして再度尋ねた。すると、声に気付いた少女がカメラに視線を向けて言葉を発した。
「初めまして。あの、私
そういや、最近外の車通りが多かったような気がする。どうやら、隣でこの天水さんとやらが引越し作業をしていたようだ。
このまま追い返すのもアレだな、と思い、俺は仕方なく少しだけ話をすることにした。寝巻きのままだが、いきなり訪ねてきた相手が悪い、そこは妥協してもらおう。
──この時俺は、何故最近と言い表すようになってから訪ねてきたのか、そもそもどうして親が来なかったのかなどの疑問は、微塵も抱いていなかった。
「あ、初めまして!」
「うおっ」
インターホンは庭を隔てた先の塀にあるはずなのに、玄関扉の目の前に件の少女が立っていたものだから、つい驚きの声を上げてしまう。天水さんはそんなことは気にも留めず、その整った顔に笑顔を貼り付けていた。
「……勝手に庭に入ったら、不法侵入ですよ。通報されたいんですか?」
「ああ、これは失礼しました。あなたから塀まで御足労いただくのはいかがなものかと思いまして」
「適当に理由をつけないで下さい……それで、何か用ですか? この辺の案内ならお断りさせていただきます」
人の応対は極力避けたい。コミュ症などというものではないと思うが、少なくとも今の精神状態で人の相手をしては、どうにかなってしまいそうだった。それに、相手にも迷惑をかけてしまいそうだ。
俺の早く終わらせてくださいオーラを感じ取っているのかいないのか、天水さんは顔に浮かべた笑顔を剥がすことはない。それどころか、一歩俺に近付いてきた。勿論、俺は半反射的に
「今から、どこか遊びに行きませんか?」
あまりに唐突な言葉に、俺は「はあ?」という言葉をなんとか胃の中に落とし込んだ。
天水さんの言葉を半ば現実逃避をしながら嫌々理解した俺は、とりあえずその理由を尋ねてみることにした。
「ええと……どうして?」
「そりゃ、せっかくお隣になったんですから、仲良くなりたいじゃないですか。それに、私とあなた、実はクラスメートなんですよ? 夏休み終わりに来た転校生がお隣の男子と付き合ってるみたいな噂、されてみたいじゃないですか! それで周りの人にドヤァしてみたくありません?」
「ありません。ありませんし面倒なのでお帰り願えますか。俺にはあなた……天水さんと遊びに行く義理がありません」
自分勝手なことを言う天水さんに少しイラついてきた俺は、突き放すようにそう言い放った。そして、それを行動でも示すべく、俺は「では」と言ってから外開きの玄関扉を閉める。
しかし、扉が三分の一ほど閉じた瞬間、その動きが止まった。そして、次の瞬間には目の前に天水さんの笑顔があった。天水さんが、扉が閉まるのを左手で止めて、右手で俺の服の襟を掴んで引き寄せたのだ。
「遊びに行きましょう?」
俺は、その迫力に押されて、根負けした。
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