第46話
正直言って、
目の前の光景を見てそう思う。
正直言って、嫌な予感はしていたんだ。
そう、昨日、エマのあの言葉を聞いた時から……
「あら?」
昨日、ナンパ男を撃退した後のことだ。
財布を見たエマが、困ったように小首を傾げる。
「どうかしたのか?」
すると、エマはニコリと笑って首を横に振った。
「いいえ、ユウ様。何でもありません。……あの、申し訳ありませんユウ様。少しだけ待っていていただけますか?」
「あ、ああ。いいけど……」
それはあまりに不吉な予感だった。
だって、一度消えて言葉通りすぐに戻ってきたエマは、メチャメチャ満足そうな笑顔だったからな。
そして翌朝。
いつものように朝食を食べていた時のことだ。
「おいゴラァ!!」
免許持ってんのか!
とでも続きそうな怒号が外から聞こえてきた。
「な、なんだなんだっ!?」
突然のことにプロ助がビクッと体を震わせる。
正直俺も驚いたが、
「さあ、ユウ様。お口を開けて下さい」
エマは全く意に介していない。つーか、そもそも外の声が聞こえていないかのようだった。
今日のエマは、一点の汚れもない白く奇麗な足を惜しげもなく露出していた。
太ももに黒のキャットガーターを付け彩っており、自然と目が行ってしまう。
「おい!! 聞こえてんだろメイド女!! さっさと出て来い!! さもないと……ぶべっ!?」
声が途切れたのは、エマが開いた皿を投げつけたからだ。
「うるさいですよ。ユウ様がゆっくりお食事できないでしょう。この……ゴミムシ共ッ!」
窓辺に行き、さっきまでの甘い口調を一転、汚いものを吐き出すような口調のエマは、二階の窓から飛び降りた。
窓から下を見るとギョッとなった。
同じく見下ろしたプロ助も息を詰めたようだ。
そこには、侵入者たちがいた。
いつの間にか庭に侵入していたガラの悪い男たち。
それに対し、エマはたった一人で対峙していた。
「間違いないこの女だ!! コイツが、昨日俺が奪った金を奪いやがったんだ!!」
突っ込みどころのあるセリフだが……
やっぱりだ!
やっぱり、嫌な予感が的中しやがった!!
財布の中を除いた時、あいつちょっと沈んだ顔をしてた。
だが帰ってきた時には満足そうな笑顔……
あいつ、あの男から金を奪いやがったんだ!!
「奪った?」
多分エマは、今キョトンとした顔をしていることだろう。
「奪っただなんて、人聞きの悪い。貴方が譲って下さったじゃありませんか。快く」
「ふざけんな!」
ブチ切れる男。
無理もない。だって男は、杖を突いて片腕を吊ってるんだもの。
「素直に謝って奪ったものを返せば、少し可愛がってやるくらいで許してやろうと思ったが……てめぇら! 俺たちを怒らせたことを後悔させてやれぇ!!」
男の号令に従い、後ろに控えていた武器を持った連中がエマを取り囲んだ。
「泣いて謝ってももう遅ぇぞ。屋敷ごと奪って……ついでに楽しませてもらおうか」
下卑た視線を見られ、エマは不快気に鼻を鳴らす。
「貴方たちのような汚らわしい男。指一本触れられるのもごめんです」
完全に下に見た、馬鹿にした言葉に、ついに怒りが爆発したらしい。
男たちは一斉にエマに襲い掛かるが、
「うわぁあああああああああああああああああああああああああああああっ!!??」
簡単に蹴散らされ、屋敷の庭から叩き出され、門の前に山を築き上げたのだった――
「ユウ様っ!」
戻ってきたエマは一直線に俺の元へと戻り、胸に飛び込んできた。
「変な人たちに絡まれて……私、とっても怖かったですっ」
「おまえの方がこわ……何でもありません」
本音が出かけたプロ助だが、エマの一睨みで黙った。
「そ、そうか。もう大丈夫だよエマ。安心して」
華奢な体を抱いて頭を撫でると、エマは俺の胸に顔を埋めたまま頬ずりをしてきた。
しばらく幸せそうにしていたエマが、不意に「そうですっ」と言った。
「ユウ様にお渡ししたいものがあるんでした。どうぞ、お納めください」
そう言ってエマが俺の首にかけてきたのは、チェーンに繋がれた一枚の金貨だった。
「あ、ああ。ありがとうエマ」
また奪ったのかよ。懲りない奴。
とはいえ、いらないなんて言えないしなあ。
内心ため息をついた時だった。
部屋の扉が、突然勢いよく開かれた。
まさかまたかと思ったが、侵入者はさっきの男たちじゃない。それは、
「ようやく帰ってこられたと思ったら……ゆーくんと何してるの? エマさん……」
伊織、だった――
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