第41話
屋敷に戻ってきた……と気づいた瞬間、誰かが俺の胸に飛び込んできた。
誰かって、エマしかいないか。
「申し訳ありませんユウ様! あの法廷には魔法を封じる決壊が張り巡らされていたもので、解除に手間取ってしまいましたわ」
解除できたんだ。すげぇな。
「これもユウ様が時間を稼いでくださったおかげです。流石はユウ様。言葉などなくとも、私たちは通じ合っているのですね」
「そ、そうだね……」
俺の口からはため息が出る。
助かったと思ったが、これはただの一時しのぎだ。
ここに隠れていたところで、どうせすぐに見つかる。それなら……
「エマ」
「はい、ユウ様。分かっていますわ。どうやら、私たちを陥れた人間がいるようです」
エマは暗い笑みを浮かべる。
「ユウさまを陥れるだなんて、お灸をすえなければいけませんね……」
「でも俺を陥れるなんて、そんな恨みを買うようなことは……」
そこまで言って思い出す。裁判での証人たちを。
うん。色々買ってるかもな。俺とエマは。
だからって殺すことはないだろ!
何か思い出したらまたイライラしてきた。しかもあのクソ女神、あっさり人のこと見捨てたくせに、傍聴席で高みの見物決め込んでやがった。
あの役立たずのクソッタレ今度会ったらぶっ殺してやる……
「誰が役立たずのクソッタレだ!!」
不意に起こった声が響き、空間が歪み、そこからプロ助が出てきた。
その後ろにはアーディの姿もあった。
「私は女神だからな。見捨てたりしない。だからこうやって助けにぃいいいでででででででででっっ!!??」
「何ですか貴女は? 今さらのこのこと現れるだなんて、恥知らずな神もいたものね」
プロ助の手首を掴んで捻じりあげるエマ。
涙目で悲鳴を上げるプロ助。うーむ、いい気味……じゃない。えぇと、久しぶりの光景だ。
「いいぞエマ。そのまま捻じり切ってやれ」
エマ、その辺にしといてやれよ。
「おいゆう! 本音と建前が逆だぞ!」
「え、エル落ち着いて。アプロディーテ様は貴方たちを見捨ててなんかないわ。事情があるのよ」
「どんな?」
俺が訊くと、プロ助が言う。
「前にアーデルハイトに相談されたんだ。政敵が父親を狙っていると。今までにも何度か過激な方法をとった相手で、王宮はピリピリしているらしい。だが、相手は狡猾でなかなか尻尾を掴ませない。協力してほしいというから、少し力を貸してやった」
「じゃあ、最近お前がどっか行ってたのは……」
「政敵を監視してたんだ。ま、私が直接手干渉するわけにもいかないから、見聞きしたことを伝えただけだが」
「おかげで分かったの。政敵は、先日の一件を利用して、今までのこともすべて貴方たちに擦り付けて、仕切り直そうとしているみたい」
とアーディ。
「その政敵って誰なんだ?」
「ヘルマン・フランク。法務長官よ」
あのハゲか。
エマは「なるほど」と納得したように言った。
「彼は昔からお父様に否定的でしたものね」
「だからこそ傍において監視してたのよ。そしてついに尻尾を掴んだ。絶対に逃がさないわ」
「当然です。ユウ様を陥れたんですもの。きっちり罪を償ってもらわないと……」
顔を俯けて怪しく笑うエマ。
分かり合っているような、微妙に話が噛み合っていない感じの二人だが、
「ちょっと待ってくれ! 法務長官が犯人ってことは、さっきの裁判は!? デキレースってことか!?」
「できれーすの意味は分からないけれど……貴方たちの有罪は決まっていたわ。反対尋問の時フランクに証拠を突きつけようと思っていたのに、貴方たちったら急に消えちゃうんだもの。法廷は大騒ぎなんだから」
「あら、私たちが悪いんですか? 証拠を手に入れたならお父様に提出すればよかっただけでしょう」
「法廷ですれば、言い逃れはできないだろうと思っただけよ。嘘は言わないと宣誓して、証人も大勢いるんだもの」
でも、とアーディは続ける。
「こうなったら、そうするしかないわね。フランクは法務部の総力を挙げて貴方たちを見つけ出して罰すると言っているし」
「あら」
エマは何故か愉しそうな顔になった。
「では手間を省いて差し上げましょう。私たちの方から出向いて、誤解を解かないといけませんね……」
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