第40話
お父さんお母さん。お元気でしょうか? 先だった不幸をお許し下さい。
突然ですが、私……脩は、
「――裁判官閣下。被告の容疑は死刑にもなりうる重罪です。恐れ多くも国王陛下を狙った暗殺未遂事件! よって、我々は死刑を求刑します!」
転生先の世界でも死にそうです。
国家反逆罪。
そんな耳慣れない罪で逮捕されたのは、俺一人じゃなかった。エマも一緒に逮捕されたのだ。
俺たちを待っていたのは苛烈な取り調べ……と思いきや、そんなものはなかった。
拘束され、裁判が始まり、
「では死刑。閉廷」
終ろうとしている……
「いやいやいやいや待ってくれっ!!」
木槌を叩こうとする裁判長のオッサンに、慌てて待ったをかける。
「一体何がどうなってんだ!? 俺が国家反逆罪!? 反逆どころか俺はこの国を救ってやったんだぞ!!」
「とぼけるな!」
鋭い声を飛ばしたのは裁判長……ではなく、俺に詰問している法務長官だった。
五十代後半と見える男だ。赤毛の男だが……なんかコイツ、生え際がアレだな。もしかしてヅ
「先日の鉱山の魔物騒ぎ、アレは貴様らが仕組んだのだろう? 魔物を倒すためと見せかけ、国王陛下がお乗りになっていた馬車を攻撃するためにな!」
またそれかよ。
「ふん、どうやら心当たりがあるようだな」
「いや誤解だ! あれは……」
シュルツにもした説明をすると、
「嘘をつくな!! 貴様の正体は分かっている! 国王陛下を狙った行為は断じて許されることではない!」
おいおい、何かこれマジでヤバくないか。
……あれ、何か妙だと思ったら、エマが随分静かだな。
隣を見ると、エマは顔を俯けて低く笑っていた。
「何が可笑しい?」
法務長官が眉を顰め問うと、エマが顔を上げる。そこには嫌な笑みが浮かんでいた。
「不当な裁判をどうしてカンガルー裁判と呼ぶのか気になってしまって。貴方知ってます?」
そんな言葉よく知ってんなと思ったが、俺が教えたんだった。
俺のいた世界のことが知りたいっていうから、食べ物とか言葉遣いを教えたっけ。
「これは決して不当裁判ではない。我々は全能のアプロディーテ様の名において……」
「ブフッ……!?」
あ、やべ。
全能のアプロディーテ様とかいう面白ワードに我慢できなかった。
この時、傍聴人席にいたプロ助は「笑うな失礼な奴めっ!!」と騒いで裁判長に怒られていた。
一方、法務長官はエマの言葉で深くなっていた眉の皺がより深くなる。
「どうやら状況が理解できていないようだ。いいだろう、では君たちが一体どういう人間か、いま一度整理しようじゃないか。裁判長、証人を召喚したく思います」
~ 証人その1 ~
「さて、証人。貴方が被告人たちに屋敷を奪われたというのは本当ですか?」
「ああ、そうだ!」
答えたのは、袖をギザギザに切った服を着た、筋骨隆々の男。
強盗団の頭だ。刑務所から連れてこられたらしい。その腕には手錠がかけられたままだ。
「あいつらがいきなり屋敷に押し入って、俺たちを追い出しやがったんだ!!」
おい、またコイツ「たち」って言ったぞ。
奪ったのは俺じゃなくてエマ……
「しかもその後、俺たちの部下まで叩きのめしやがっ――」
「ああ、もう結構です頭」
「だからお前が頭って言うんじゃねぇよ!!」
~ 証人その2 ~
「貴女が被告人たちに何をされたのか教えてください」
「私はホテルの部屋を追い出されたんです! 私たちが泊まっていたのに、急に押し入って訳の分からないことを言われて、気づいたら部屋を追い出されてどこか知らない場所にいたんです!」
こ、コイツか! あのシュルツとかいう法務官の彼女は!
いや、それをやったのもエマであって俺は関係ないぞ。
何だよ俺は全然悪くねぇじゃん!
~ 証人その3 ~
「はい。確かにその男です。間違いありません」
詰問された男は、俺を見てそう言った。
上等なスーツをきっちり着込んだ四十代の男。見覚えがある。あいつは……
「私の店……カジノで不正を働きました」
……そういやそんなこともあったな。
って、いやいやいやいや!
「俺はそんなことしてねぇって! ただカードの順番を覚えてただけ! 記憶力がいいのは不正じゃないだろ!?」
「ですが、私は『それはご遠慮いただいております』と何度も申し上げました。『純粋な運で勝負していただかないと今後当店への出入りを禁止させていただきます』とも」
「いやでもそれはさ!!」
「静粛に!」
木槌の音が法廷に響く。
「だって裁判長……!」
「なんてけしからん男だ、ユウ・アイザワ! まったく、恥を知りなさい!」
何て言い草だ。
後ろからプロ助の「そーだそーだ!」と言う声も聞こえてきてイライラも倍増だ。
「どうやら、これ以上の詮議は必要なさそうですね。判決を下します。被告人を――」
決心したように言った裁判長が木槌を振り上げ、
おいおいヤバいぞ! マジで死刑に……
突然違和感を覚えた。自分の周囲に急速に魔力が集まっていくような感覚。
法廷の床全域に、複雑な文様を描いた魔法陣が浮かび上がり、それは紅黒い光を発し……
法廷が騒ぎに包まれたかと思えば、気づいた時には――
「あ、あれ? ここは……」
俺たちは屋敷に戻っていたのだった。
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