第5話 精一杯ご奉仕します

 部屋に戻り、俺は何をするでもなくベッドに寝転がっていた。



 彼女に殺されたり別の女に殺されかけたり、短期間に色々なことがありすぎた。


 思わずため息をつくと、ちょっと冷静になることができた。


 すると周囲に注意が向く。



 エマは、今は同じ部屋にはいない。


 隣の部屋にいて、手際よく何かを作っている。楽しそうな鼻歌付きで。


 裁縫が好きなんだろうか。女子っぽい一面だな。



 ……つーか、これからどうすっかなあ。


 いきなり訳も分からないまま、見知らぬ世界に放り出されて。


 どうしてこんなことに……あ、俺が浮気した所為か。



「ユウ様、お休みのところ失礼します」


 戻ってきたらしいエマに、


「っ!?」


 ギョッとなってしまった。



 エマが着ている服は、フリルに飾られたメイド服だった。黒い帽子を取り、代わりにヘッドドレスをつけている。しかも純白のエプロン付き。


「エマ、その服は……」


「はい。私は今からユウ様にお仕えするわけですから、勝手ですが誂えさせて頂きました。これは仕える者の清掃ですから。あの……如何でしょう? お気に召しましたでしょうか?」


「ああ、とってもよく似合ってるよ。かわいい」



 これは心からの言葉だ。


 実際に、メイド服を着たエマは驚く程に奇麗だ。


 ……眼帯がミスマッチと言えなくもないが、エマが美人すぎる所為でマニアックな感じになってんな。



「ありがとうございますっ! お好みに合って、本当に良かったですわ!」


 エマは組んだ両手を頬に当て、心底嬉しそうに微笑んだ。


 小さく飛んだので、スカートがふわりと広がる。もともと短いからか、それだけでパンツが見えそうだった。


 俺は、無意識のうちに、



「なあ、エマ。今日は疲れただろう? 一緒に眠らないか?」


 すると、エマはキョトンとした顔になった。


 だが、その後すぐに全てを察したように顔を真っ赤に染めた。



「は、はい。ユウ様……」


 楚々とした、それでいて緊張した足取りでベッドまでやってきた。


 そしてエマは俺の横に、こたつの中で丸まる猫みたいに寝そべる。



 俺はその上に覆いかぶさりエマを見下ろす。


 エマは少し震える唇で、言葉を紡いできた。



「ユウ様、私は貴方のモノです。この頭からつま先まで、全てを貴方に捧げます。外見もお好みに合わせますわ。痩せろと言われれば痩せます。太れと言われれば太ります。お好みの髪形にしますし、切れと言われればお好みの長さまで切ります。貴方がお好きな服を着ます。スカートをもっと短くしろと言われればそうします。下着姿で、裸でと仰るなら……二人きりの場所ではそうします。全て貴方の仰る通りにします。ですからどうか、どうか……私をお傍に置いて下さい。私の傍にいて下さい……」



 そんなことを言われて、嫌だなんて言えるはずもなく。


 俺はそっと、エマと唇を重ねたのだった――




 やっちまった……



 行為を終え、賢者となった俺は自責の念に囚われていた。


 何でだ……もう二度とこうはならないって誓ったはずなのに。


 でもまあ、



 隣を見ると、幸せそうな顔で俺を見つめているエマがいた。


 まあ、いっか。



 エマ美人だし。こんな子が仕えてくれるっていうんだ。別に断る理由なんてない。


 何か問題が起きたら……それはその時に考えよう。


 明日のことは明日の俺に任せればいい。



 そう考えつつ、俺は余韻に浸りながらそっと目を閉じたのだった……



 ――――


 ――――――――



 何てかわいらしい寝顔でしょう。


 私の隣で、寝息を立てているユウ様は、何とも魅力的なお顔をしています。


 本当に、素敵な方……私を、私の魔法を褒めて下さるなんて……


 こんな気持ち、初めてです。



 ああ、好き。


 好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き



 もっと貴方のことが知りたいです。もっともっと。全部。


 きっと教えてくださいね。私は貴方の仰る通りにしますから。



 素敵な方の、素敵な香りに、私はそっと身を委ねました……

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