儚くも濃くて深い
佐武ろく
1
「なお!そっちいったぞ!」
コートの端に居たのに不運にもサッカーボールはボクを目掛け転がってきた。これが爆弾なら急いで逃げても文句は言われないだろうがサッカーボールではそう言う訳にもいかない。仕方なく自分なりにタイミングを合わせ全力で足を振る。だが運動の苦手なボクの足はいつも通り空を蹴りそのまま無様に転んだ。そしてボクの恥ずかしさ何て気にしてないと言わんばかりに清々しい青空を見上げながら聞こえてくる笑い声。
「だからあいつはいらないんだよ」
「こんなの実質11対10じゃん」
そんな笑い声に混じって嫌な言葉も耳に入ってきた。ボクだって強制じゃなきゃ体育なんてやりたくない。そう思っていると何だか目の前の青空にイラついてきた。
「お前が雨を降らさないからだ」
完全なる八つ当たりで空への文句を呟く。すると足音が近づいてきて。
「ドンマイ」
彼は脚を跳び越えながらボクを見下ろしつつ人差し指を指し一言だけそう告げた。そしてそのままボールを取りに走る。クラスの中心的人物でありサッカー部の
「よーし。一昨日やった小テストを返すぞー。いいか?今回の小テストみたいな感じで期末テストは問題を出すからな。今回点が低かったヤツはちゃんと勉強しろ」
小テストか。確かそんなのやったな。結構手ごたえはあったし自信はある。もし満点だったらどうしよう。注目されるのは苦手だ。
『27点』
まさか自信と実力は必ずしも比例しないという世界の真理をこの年で体感することになるなんて。勉強は苦手だ。意味は分からないし面白くもないものを無理やり覚えないといけない。学生は何て辛いんだ。運動もダメ。勉強もダメ。おまけに友達もいない。どうやら今日もボクは通常運転らしい。ちなみにボクみたいな人間を世間では陰キャと呼ぶらしいが、別に静かだし悪くない。別に健一みたいにみんなに囲まれてスポットライトを当てられながら楽しそうに笑いたいとは決して思わない。決して。だけど楽しそうな彼を見ていると、人に頼られてみんなから尊敬される主人公みたいな人生を歩むってとんな気分だろうとたまに思う。まぁ、少なくともボクには縁のない人生だ。そして小テストが返され普通に授業を終えると次は昼休み。給食の為に学校に来てるって言う人は居たけど給食のない昼休みの為に学校に来てるって人はいないだろう。だってわざわざ学校に来るより家でご飯を食べるかどこかに食べに行った方がいいに決まってるじゃないか。まぁ授業よりかは昼休みがいいけど。いっそのことずっと昼休みでいいのに。ってそれはもはや学校に来る意味はないか。とりあえずボクは今日も1人でお昼を食べていた。場所は屋上。ではなく屋上へ続くドアの前。ほら階段を最後まで上ったところにある狭いスペース。高校生になったら屋上で昼ご飯!って最初は思ってたけどそれは物語の中だけだということを初めて知ったあの日は忘れない。ドアの前で1人唖然としたっけ。それ以来、少し妥協してこの場所で食べてる。ここは誰も来ないし静かでいい。ちょっと汚いのが玉に瑕だけど。まぁ悪くはない。ボクはいつもパンと飲み物を買ってここで食べている。それがボクの日常。
「あぁーあ。どすこいクレイジーズ運営終了しちゃったし今日からどうしよう」
ボクはもちろん帰宅部で寄り道せず真っすぐ家に帰るという部活動を毎日きちんと全うしている訳だが部活動後いつもやっているMORPGの運営が終了してしまった。だから今日からどうするかという死活問題に直面している。あぁそうだ。言い忘れてたけどこの場所の一番の良い所は誰も来ないからスマホでネットサーフィンし放題という点。パンを片手にSNSで何かどすこいクレイジーズに変わるゲームが無いか調べる。すると何やら最近盛り上がっているというゲームを見つけた。
「Villain For Villain?なんか聞き覚えはあるなぁ」
早速、ネットで調べてみる。
「タクティカルFPS。あぁー1年前に発売したやつか。発売直後に海外では流行ってたけど今は日本でも流行ってるんだ。CPU相手のFPSゲームはやったことあるけど対人はしたことないなぁ。楽しいのかな?」
それから色々と調べていると来週の週末に大きな大会の本戦があるらしい。予選が終わって準々決勝からオフラインでそれが土日にあるみたいだ。
「優勝賞金2000万!?」
過去最高額の優勝賞金ということもあって更に盛り上がってるのか。しかもランクの制限はあるもののプロアマ問わず参加可能。キャッチコピーにもあるようにVillain For Villainの日本一を決める大会らしい。
「へー。楽しそうだな。どうせ暇だし行ってみようかな」
それからその大会の日まではいつも通りの特に何もない日々を過ごした。
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