傷嗤い
雑食紺太郎
傷嗤い
彼は嗤う。
「あはは、ははっ、あははははっ。」
顔には感情の色が見られない。
彼はぶつぶつ何かを言っている様だ。
この位置からは聴こえない。
「俺には、何も‥‥‥ねぇんだよぉ。」
彼の声に色がついた。
先程までは顔に色はなかったが、吐き出した声には色がついていた。
「なんでだよ!どうして、俺が‥‥‥こんな目に遭ってんだよぉ。」
彼は涙を流していた。
流していることには気づいていない様だ。
彼は近くにあったカッターナイフを手首に当てた。
「あははっ、前は痛くてたまらなかったのに、今は全然っ、痛くねぇんだなぁ。」
彼の心はもう壊れていたのだろう。
本来痛いはずの裂傷を快楽として捉えてしまっている様だ。
「ははっ。あー、もう死んじまおうかなぁ。」
彼はカッターナイフを持つ手を手首から首筋に当て直した。
「このまま喉元掻っ切ったら、死ねるかなぁ。」
カッターナイフじゃ心許ないとでも思ったのか、次は包丁を手にしていた。
「ふふっ、俺が死んでも誰も悲しまねぇ。」
彼は包丁を首に当て、思いっきり切り裂いた。
「かはっ」
バタッ。
彼が床に伏せた様だ。
「ははっ、これでもう‥‥‥苦しまなくて済むなぁ。」
彼はそう言って息を引き取った。
その時、彼は幸せそうに笑っていた。
そう見えた。
傷嗤い 雑食紺太郎 @zasshoku_konntarou
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