あの夜のしたで待ち合わせ

友大ナビ

第1話

 よく待ち合わせてたいつもの公園で俺は少しドキドキしていた。そこは幼なじみの俺達が小さい頃からよく遊んでいた、どこにでもあるような公園。麻里に会うのは夏以来だ。


 真冬の切るような夜風が、まだ小さく固い蕾をたくさん付けた細い枝を揺らしている。


 いつもバスターミナルまで迎えに行くって言うのに、麻里はここで待っててと言って聞かない。しかも今回彼女の到着は夜なのに。


 高校を出てお互い地元を離れ遠距離になってしまった俺達が会うときのなんとなくの流れが、いつの間にか恒例行事と化してきた。麻里はそれをまっとうしたいだけ。


 いつもとは違う穏やかな時間の流れを心地よく感じながら、コートのポケットで俺は自分の手が冷えないよう温めていた。


「ゆーうーとぉー!」


 合図のように公園の入り口あたりで何かが宙を舞った。暗闇に響くよく通るでかい声。大晦日に免じてご近所さんお許しください。いや、そんなふうに呑気にしてたらくるぞ、構えろ!


 俺はグッと体躯の芯に力を込めた。


「会いたかったー!」

「俺も……っブフォッ!?」


 麻里の猪並みのダッシュ力に完敗した瞬間だった。受け止めきれずに背中から思い切り地面に叩きつけられた。


「痛ってー、大丈夫?」


 慌てて彼女の無事を伺った。上体を起こすと麻里は隙間もないくらい俺の胸にピッタリしがみついていた。子猿か! とか言わない。笑っちゃうくらい可愛いから。


「ケガしなかった? 危ないからもうこの恒例イベントやめにしない?」


 表情を確認しようとそっと麻里の前髪をかきあげたら、潤んだ瞳と目があった。

 柔らかい髪色、知らないメイク。やべ、女子力あげてきた! なんかちょっと大人っぽくなったかも。


 なんてその可愛さにうっかりみとれていたら、不意打ちのキス。


「……ちょ、慌てんな。いろいろ詰め込みすぎ!」


 照れ臭くてうろたえたのバレたかな?

 そんな焦りを誤魔化すように、俺の膝の上に馬乗りになっている麻里の顔を両手で包んでたしなめた。


「だって……」


 少し不貞腐れている。


「裕斗の手あったかい……」


 麻里はすぐ機嫌を直して、自分の頬に添えられた俺の手を握った。


『あたりまえだろ? 冷えないようにあっためてたんだから。おまえのために』


 とか言えねー。恥ずかしくって言えねー。


「てかなんか食べてんだろ? くちびる甘かったんだけど」


「……グミです」

「グミかよ!」


 ごっくん。と無理やり飲み込む音がする。


「やめて。マジやめて。てか反則!」

「えへへ」


 追い討ちをかけるような恥じらう笑顔。勘弁してください。


「あとさ、さっき投げたの靴だろ? ダメじゃんそーいうことしちゃ」

「だって走りにくかったんだもん」

「俺と会うときはスパイクでもはいとけ」

「ひどーい」


 泣きそうな顔を見る前に、ぎゅっと抱きしめた。


「嘘だよ冗談」

「うわーん、すき! 安定のツンデレすきー!」

「解説すんなよバカ」


 柔らかい頬が俺の頬に触れて。いや頬に食い込んで? いや、頬骨に刺さるように……。


「痛い痛い!」

「ごめんごめん!」

 

 一度引き剥がして立ち上がった。麻里の愛情表現は、力一杯でいつも笑ってしまう。

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