第52話 誰にも言わずに


 それは突然の事だった。


 河合さんが、この職場を辞める事になった。何も聞いていなかったのはコトコだけでは無かった。


 誰にも相談せずにいたから唐突な気がしただけで、おそらく少し前から考えていたに違いない。


「河合さん、知らなかったからびっくりしたよ」


「……ちょっと前から考えていて……やっぱりここって、お給料安いじゃないですか。三十くらいになった時、結婚してるかどうかもわかんないし。もうちょっと収入があった方がいいと思って——」


 他にやりたい事があるわけではないが、父のコネで入っただけの会社で嫌な思いをし続けるよりも全く別の所で働きたいと、河合さんは言った。


 そうなんだ〜、頑張ってね。


 なんてニッコリ笑顔で返したが、「お給料が安い」とか「三十くらいになった時」とか、「結婚してるかどうか」とか、三十過ぎて結婚してなくて安いお給料で生活しているコトコはひどく傷付いた。





 つづく

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