第36話 みかん

 職場でみかんを配られた。


 コトコのものは傷んでいた。一部がぐずぐずに崩れていて、きっと中は腐っている。


 ——…………。


 コトコはそれを言い出せずに、ぐっと喉を詰まらせた。


 知っていて配られたんじゃないかと思うと顔が熱くなる。


 怒りと悲しみで。


 ——あの子なら文句言わないわよ。

 ——どんな反応するかしら。

 ——気付かなかったりして!


 陰でそう言われている、そう感じてもコトコは何もできない。目立たぬよう、さっと紙で包むと隠すようにして鞄に入れた。


 給湯室で捨てているの見られたら、更に何か言われるのは間違いない。


 塞ぎ込んだコトコは、家までみかんを持ち帰ってから捨てた。






つづく

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