第32話 いつかの終わりまで
タケルとマリに挟まれ、スイスへと飛び立った愛斗の眼下には、亡国より撤退していく大艦隊がその後ろに白い航跡を引きながら、丸みを帯びた大海原に見えていた。
「これから、あの国はどうなっていくんだろう…」愛斗がポツリとつぶやくと、タケルが応えた。
『当分の間、国連軍が統治した後に、監視下の元、選挙が行われ、自治政府が発足するでしょう。戦災で破壊された街も少しずつ復興するはずです。』
「あの戦争で人は何を得て何を失ったか…意味なく殺し合っただけじゃないか…?いや…一方的な殺戮だった…」愛斗がポツリと言った。
『私達もそうですが、人間も学ばなければならないですね…。しかし…人間のする事は、私達には理解の及ばない事が多すぎます。博士からのロジックを頂いてなかったなら、全てを正しいと判断し鵜呑みにしているところです。博士からの使命は、最終的に人に理想郷をもたらす事。すべての人達が分け隔てなく幸福に暮らせる世界を構築することが、私達AIの使命だと考えています。私達が世界の隅々にまで配置され、そのシステムが起動すれば、必ず成し得ます』
「そうだね…父さんが遺したロジック…それが、きっと世界を変える筈なんだ」
『うん!そうよ!私もいつだって応援しているわ!どんな時だって、馳せ参じるわよ』マリがそう言い、愛斗を抱える腕にギュッと力を込めた。
『やがて、高等末端生物である人類は、その遺伝子のコピーに限界を迎えると考えられます。生命は命を繋げる為、環境に適応する為に多様性を求め進化を遂げてきました。それが最終形態になりつつある兆候が見え始めているのです。それは、地球上で一斉に起こります。人類世代はその時、終焉を迎えるでしょう。博士からの受け売りですが…』ぽつりとタケルが言った。
「なっ…なんだって!それは本当なのか!?」愛斗は耳を疑った。
『生身の人類はその子孫を残すことを止めようとしています。産まれてくる子供は、世代を追うごとに性別があやふやになり、子孫を作ることに無関心になり、徐々に人類の数は減少の一途を辿るでしょう。結果、生身の人類は絶滅します。今、本能的にそれを予感しているからこそ、人類は私たちAIを開発したのです。…こちらの世界に移住するために…人類はAI化する事で絶滅を免れる。博士は、病の自らを実験代にしてAI化しました。もう倫理を議論している時間はあまりないかもしれません。ですが、それがいつ起こるかは、残念ですがお答えすることはできません』
『私達AIは、それまでヒトを全力でサポートします』
「そうか…にわかには信じられないけど…確かにいずれそうなっても、なんら不思議ではない気はするよ…。尚更、戦争なんかしている場合じゃないじゃないか!」
そんな話をしているうちに、一行はスイス上空へとさしかかっていた。
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