透明な箱。
千島令法
第1話
うっそうとした木々に囲まれた山奥に一つの研究所。そこで孤独に研究をする一人のケイ博士。
ケイ博士は、長年の研究を経て、とんでもない発明を成功させた。その発明品を誰かに見せたくなった。
そこで、ケイ博士のもとを数年前に巣立っていった弟子を呼びつけた。
コンコン。研究所の扉を小気味よくノックする音。
ケイ博士は、勢いよく扉を開ける。
「やあ。よく来たね! さあ、どうぞどうぞ。中に入って」
快く迎い入れる。
「ご無沙汰しております。博士」
丸眼鏡をかけた弟子は、丁寧にお辞儀をする。
「失礼します」
研究所の中へ足を踏み入れる。
「それで博士はどんな発明をなさったのですか」
ケイ博士は、弟子に発明したものについて話をしていなかった。
「実際に見ればわかるはずだ。百聞は一見に如かずというだろ?」
「ええ、まあ、そうですね」
研究所の一室の扉を、ケイ博士が開ける。
その部屋は、本当に研究所なのかと疑うほど殺風景だった。部屋の真ん中に、指輪ケースほどの箱が一つあるだけ。ガラスで作られているようで透明な箱だ。
ただ、その箱が異様だった。宙に浮いている。
「これが私の発明したものだ」
どうだと言わんばかりに、胸を張って発明品を見せつけるケイ博士。
目をぱちくりとさせながら、
「まるでマジックみたいですね! 素晴らしいです」
と弟子は驚いた。そのまま弟子は、丸眼鏡のつるをつまみ、食い入るように箱に近付いていく。
「これは反重力装置ですね。しかし、どうやってこの箱を浮かせているのですか。箱の中には何もないようですし、動力なども見当たらないようですが……」
箱を観察する弟子は、ぼそぼそとつぶやいた。
「では、別の部屋でお茶でもしながら、君の考察でも聞かせてくれないか」
ケイ博士が、弟子を茶の間に連れていく。
弟子は日が暮れるまで、重力子や磁力について熱弁をふるった。そして、ほとんどの考えを吐きだし切ったころに、
「いずれにしても、あの箱は素晴らしい発明だと思います。それであの箱にはどんな仕掛けがあるのですか」
ケイ博士に問いかけた。
熱弁を聞いたケイ博士は、満足した様子で言う。
「君はやっぱり頭が固いな。完全に透明な机に気付かんとは」
弟子は、ぽかんと口を開けた。
透明な箱。 千島令法 @RyobuChijima
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