失恋したら聖剣と魔剣を手に入れました

名無しの権兵衛

本編

第1話 失恋

 それは突然の告白だった。


「俺さ、ミクの事が好きなんだ……」

「えっ……」


 いつものようにアルとライが小高い丘で遊んでいた時、アルがライにミクが好きなんだと告白した。あまりにも突然だったので、その告白を聞いたライは思考が停止してしまった。が、すぐに我に返ったライはアルに問いかける。


「なんで、その事を俺に?」

「だって、ライもミクの事好きだろ?」

「ッ……バレてたのか」

「当たり前だろ。何年一緒にいると思ってるんだ」


 二人は所謂幼馴染であり、同じく幼馴染で紅一点のミクに惚れている。


「それで、急にどうして俺に話したんだ?」

「ああ、実は次の誕生日に告白しようと思ってるんだ」

「なっ……」

「それで、お前はどうするんだ? ライ」

「俺は……」


 アルの指摘通り、ライもミクの事が好きだ。ここで怖気づいてしまえば、アルがミクと付き合うことになるかもしれない。それは嫌だとライは思って、アルに自分も告白することを告げる。


「俺も告白するよ。ミクに」

「そうか。なら、俺達はライバルだな!」

「ハハッ、ライバルか。ああ、いいな!」

「まあ、でもお互いに昔からミクの気を引こうとしてたけどな」

「それは確かに」


 笑い合う二人は、昔を思い出していた。アルとライはお互いにミクの気を引こうと頑張っていた。誕生日には彼女のためにプレゼント選びに躍起になったり、追いかけっこや木登りといった遊びではカッコいいところを見せようとしたりしていたことを思い出して、また笑う。


「どっちが選ばれても恨みっこなしだ!」

「おう!」


 そう言って二人は固く握手をして約束した。


 ◇◇◇◇


 その翌日、ライはミクに呼び出された。しかも、何故か自分だけ。ミクの事が好きなライは昨日の事もあり浮かれている。もしかして、告白されるのではないだろうかと。

 そして、昨日アルと話していた村の近くにある小高い丘で二人は向かい合う。ミクはこれから話す内容が恥ずかしいのか顔を真っ赤にして、モジモジしている。これは本当に告白かもしれないとニヤけていたライだが、次の瞬間失意のどん底に落ちる。


「私ね、アルが好きなの! だから、ライ。協力してほしいの。ほら、二人って時々私抜きで遊んでることあるでしょ? 昨日も二人だけで遊んでたし」


 ライはミクが何を言っているのかよくわからなかった。最初のアルが好きという発言以降は記憶にない。ただ朧気に覚えているのは返事をしたら、彼女が大喜びしていることだけだった。


 その後、家に帰ってからの記憶も曖昧だ。ライは母親に何か言われたような気がしたが、よく覚えていない。頭の中で、ミクはアルの事が好きだという知りたくもなかった情報だけが何度も繰り返されている。


 夕食を取ったライは茫然自失のままベッドへ寝転ぶ。それから、ボンヤリと天井を見上げていたが、やがて現実を認識し始める。ミクはアルが好きで、アルもミクが好き。二人は両思いで、自分は蚊帳の外。


「(なんだよ、それぇッ……!!!)」


 最初から勝負にすらならなかった。すでに二人は両思いで、後は告白すれば結ばれるだけ。とんだ茶番である。アルと約束したが、ライはどうしようもなくアルを恨んだ。なにせ、ライはミクに頼まれて二人が付き合うように協力しなければならないのだ。

 恋敵アルの為にどうして自分がと、何度も繰り返すがそれが現実なのだ。悲しいことにミクが望んだのだ。ミクの為なら喜んで協力できるが、それはあまりにも残酷な仕打ちだった。


「うぅッ……うぁ……うぅぅ!」


 これから自分は二人の為に、道化師ピエロを演じなければならない。それがどれほど辛いか。初恋は実らないというが、これはあまりにも苦い思い出になることだろう。


 ◇◇◇◇


 それから、ライはミクの願いを叶える為に三人で遊んでいる時、アルとミクを二人きりにするように誘導したり、アルとライが競い合う場合はアルを勝たせるようにした。本当は自分が勝ってミクにアピールしたかったが、ライが勝っても負けてもミクが最初に声を掛けるのはアルだった。だから、ライは心の中でむせび泣きながら、アルに花を持たせるようにした。


 今までの自分の努力は何だったのだろうかと虚しさを感じるライは、ミクに称賛されているアルを見て憎悪を膨らませる。しかし、すぐにその憎悪は萎んでしまう。ミクがライに小声でお礼を言ったので。


「(ああ、やっぱり好きだ……)」


 ライは改めてミクが好きだと認識するが、ミクはすぐにアルの傍へ。それを見てライは悲しくなる。いっそのこと奪ってしまえと仄暗ほのぐらい気持ちが込みあがってくるが、アルの傍で幸せそうに笑っているミクを見て霧散する。


「(消えてしまいたい…)」


 ただやはり、ライにとって辛いことに変わりなかった。正直言って、この場から走り去って、どこか遠くへ逃げたかった。だけど、それは出来ない。この小さな村でライは両親の跡を継ぐことになっているのだ。だから、どこか遠くへ行くという選択肢はない。


 ◇◇◇◇


 二人が両思いだと知ってから月日が経ち、今日はミクの誕生日である。そして、アルとライがミクに思いを告げる日でもあるが、ライだけは結末を知っている。だから、ライにとっては生まれてから一番最悪の日と言ってもいい。


「よし、前に約束したよな。どっちが結ばれても恨まないいて」

「……ああ」

「どうした? 元気なさそうだけど?」

「いや、なんでもない」


 明らかに落ち込んでいるライを見て、アルが心配そうに声を掛ける。だが、ライは体調が悪いわけではなく、これから起きる未来を知っているから憂いているだけ。だから、体ではなく心の方が問題だった。


「なあ、アル。俺から先に告白していいか?」

「あー、そう言えば順番とか決めてなかったな。でも、俺が先にミクの事好きって言ったんだから俺が先でよくないか?」

「まあ、そうなんだけどさ……。今回は逆でもいいじゃないか」

「んー……。そうだな。それでもいいか」

「へへ、もし俺が付き合っても文句は言うなよ」

「あ、それ聞いたら俺が先に告白したくなった! やっぱ俺が先な!」

「ふざけんな! 今更遅いぞ!」

「じゃあ、ここは公平にミクが待っている場所まで競争だ!」

「上等だ! 恨みっこなしの本気だからな!」


 酷い茶番劇である。ライは笑っているが内心は悲嘆に暮れている。ただのお膳立て。自分は道化師で二人の恋心が一層燃え上がるように仕向けるだけの役割に過ぎない。最早、ライの心は崩壊寸前であった。


 最後の競争でライは全力を出した。アルと互角ではあるが今日だけは気迫が違う。せめて、せめてこの想いこれだけは譲らないと全力を尽くした。その結果、勝利したのはライだった。


「悪いな、俺の勝ちだ」

「ああ。行って来いよ」

「ああ」


 そう言ってライは振り向かずにアルの元から離れて、ミクが待っている場所へ向かう。しかし、途中で足を止めてアルへ振り返る。


「フラれたら、その時は慰めなくていいから。放っといてくれ」

「それは俺も同じだ。頑張って来いよ」

「(ああ、お前がどうしようもなく嫌いだったら……)」


 ニッと笑って自分を応援するように拳を突き出したアルを見て、ライは複雑な気持ちになる。彼が嫌いであれば、どれだけ楽だったろうか。そうすれば心置きなく、ミクを自分のものにしようとしたのに。どうして、お前はそんなに良い奴なんだとライは悲しいような嬉しいような顔をしてミクの下へ向かった。


「お待たせ、ミク」

「あ、ライ。あれ? ライだけ?」


 ズキンッと心が痛むライは一瞬だけ悲しそうな顔をするが、すぐに取り繕うように笑う。


「ああ。俺だけだよ。ミク、誕生日おめでとう。これ、俺からのプレゼント」

「ありがとう!」


 ライが渡したのは髪飾り。両親の手伝いをして、お小遣いを稼いで行商人から買った代物だ。


「これって、私が欲しかったやつだ。高かったでしょ? ほんとにいいの?」

「ああ。誕生日だからね。受け取ってもらえると嬉しい」

「えへへ、ありがと。じゃあ、早速つけちゃおうかな」


 嬉しそうに笑うミクはライからもらった髪飾りを付ける。


「どう? 似合う?」

「うん。似合ってる」

「ありがとうね、ライ! 大切にするね!」


 このままの勢いで告白したいライだったが、彼女が好きなのはアルなのでフラれるのは確定している。それに今更自分が告白すれば、彼女の負担になるだけだとライは感情を押し殺して踵を返す。


「それじゃ、俺はこれで」

「え? どこに行くの?」

「今日は他に用事があるんだ」

「そうなんだ……」

「うん。でも、この後アルが来ると思うから」

「え? ほんとッ?」


 明らかに自分の時より嬉しそうにしているミクを見てライは落ち込むが、最後まで悲しい表情を見せないように笑って見せた。


「ああ。あいつもとびっきりのプレゼントくれるはずだよ! じゃあな!」

「うん! バイバイ!」


 手を振ってライはミクの下から走り去り、アルに見えるように山の方へ消えた。アルはライがいなくなったのを見て、ミクの下へ向かい告白した。勿論、二人は両思いだったので晴れて恋人同士になった。


 その一方で告白する前にフラれてしまったライは、一人山の中で絶叫しながら走り回っていた。


「ああああああああああああッッッ!!!」


 ぐちゃぐちゃな感情をすべて吐き出すように涙を流し、鼻水を垂らしながらライは山の中を駆け回った。そうすることで未練を断ち切ろうと必死に。


「ああああああああああああッッッ!!!」


 だけど、そう簡単には未練を断ち切れない。ずっと好きだったのだから仕方のないことだった。小さな村に生まれてから、ずっと一緒だった二人。気が付いたらミクの事が好きになっており、いつも目で追っていた。いつかは恋人になんて妄想は何度もしてきた。だけど、何一つ叶わなかった。

 突きつけられたのは残酷な事実。告白するどころか恋敵の為に道化師を演じる羽目になってしまったのだ。忘れられるわけがないだろう。


 どれだけ泣き叫んでいたことだろう。ライはすっかり涙も枯れてしまい、トボトボと魂が抜けたかのように山の中を歩いていた。このまま死んでしまいたいと思いながらライが歩いていると、足元にあった穴に気づかず落ちてしまう。


「しまッ! うわああああああああああッ!?」


 思った以上に深い穴の中へ落ちていったライの叫び声は、誰にも届くことはなかった。






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