敗北

 勝負がつかないまま、アリシアが来なくなって10日が過ぎ、20日が過ぎた。

「…………」

 のんびり過ごし、忘れて、思い出して、ふと森の方を一度眺めたが、それからまた次第に忘れていった。

 その日は湖の上で、空中に浮いていた。

 昨日は城を覗きにきた5人の兵士を食べたので、しばらく動く気にはなれない。

「姿を現しなさい!悪魔!」

 声に呼ばれ、寝転がったまま城の方をちらりと見る。

 玄関前のいつものところで、相変わらず威勢のいい声が聞こえた。

「は~ん……またまた元気だね」

 独り言をいいながら、また空を見上げた。今はとにかく動く気分ではないのだ。

「修行をしてきたわ!もう、あなたに負けることなんてない!」

 また、剣を構えたまましゃべっている。

「…………」

 黙っていると、サウスがこちらを指差すのが見えた。

 しかたなく、くるんくるんと空中でバク宙をしながら城へと向かう。

「なんだい?」

 アリシアまでの距離は、すでに1メートルといったところ。これほど簡単に間合いに入れたとあっては、勝負はついたも同然だろう。いったいどんな修行をしたのやら。

 じっ……と見た。

 威勢のいいアリシアは、剣を構え直す。

 修行をしていた。だから、こんな長期間ここに来なかったということらしい。

 まあ、そんな意気込んでいるなら、相手をしない手はない。

 悪魔が腕を振るうと、そこに剣が現れた。以前アリシアが投げて寄越した剣は、そのまま悪魔の手にあった。

 アリシアは真剣な面持ちをしている。

「私から行くわ」

 ふぅん……。

 アリシアが地を蹴った。どうせなら、と、からかうつもりでその剣撃を剣で受け止める。

 そう、努力は見てやらないといけない。

 2、3度剣を受け、けれどやはり、人間がちょこっと練習しただけの剣捌きなど差がわからない。

 しかたなく、5度目の剣撃を剣で受け止め、その力を受け流すように剣で上へ、アリシアごと放り投げた。

「……くっ」

 頭上から、苦しそうな声が聞こえ、10メートルほどの空中で、地面目掛けて落ちていった。

 アリシアは持ち直すこともなく、声も出ないようだ。

 剣を横にし、受け止めるようにして、アリシアをそのまま地面へ下ろした。

「ぐ……っ」

 どこか傷つけたか。これ以上剣を振るうのは無理だろう。

「ま……負けを認めるわ」

 地面の土を、握りしめる。下を向いていたアリシアが、顔を上げると、目には大粒の涙が溢れていた。

「わっ……私……でも、私……」

 ぼろぼろと涙がこぼれている。

 決闘したあとに勝者の前で泣きじゃくるなんて、命が惜しくないのか。

「で……弟子にしてください」

 アリシアは、地面にひざまずき、泥だらけになりながら、涙を溢れさせて、そう言った。確かにそう言った。

 自分が失敗したことに、この瞬間気がついた。

 負けたのは悪魔の方だった。

 アリシアとサウスがその城に住み着くまで、そう時間はかからなかった。

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