第37話 共生ではない

「お風呂、どうだった?」

「いい湯だったよ。広いし、ゆったり出来た」

「そっか。いつもだと狭く感じるけど、人が少なかったからね。一度飛び込んでみたかったんだ」


 そういえば飛び込んでいたな。


「よかったね。夢が叶って」

「うん……そうだね」

「……あんまり嬉しそうじゃないね」

「そんなことないよ。明日もまだ居るんでしょ。だから明日も飛び込めるんだって思ったの」

「なるほど」


 明日も飛び込むのは確定なのか。

 季節的にはまだ冬だけど、あんまり寒くないな。

 これなら湯冷めの心配はなさそうだ。

 体育館に……じゃなかった。

 えーと、なんて言えばいいのかな。

 宿舎か? とにかく戻ってきた。


「あ、ダイス!」

「む、戻ったか」

「うん。みんなお待たせーっ。お風呂入れるよーっ」


 それを合図にゾロゾロと建物を出て行った。

 あ、もう床に布団が敷いてある。


「それじゃ布団敷くから待ってて」

「もう寝るの?」

「今日はもう仕事が無いからね。明日に備えて寝るだけだよ」


 〝遊ぶ〟という概念は無いのか。


「あーそっか。予備の布団を持ってこないと」

「手伝おうか?」

「これは私の仕事。だから待ってて」


 別に手伝うくらいいいと思うけど。

 これもここ独特のものなのかな。

 でも手伝うって言葉が残っているみたいだから、概念はあるのだろう。


『今日は短い時間でしたが、実に多くのことが分かりました』

『ん? ああ、そうだな』

『どうやって共生してるのかと思いましたが、これはあまり好ましい……いえ、忌むべきことかも知れません』

『わたくしもそうだと存じるのでございます』

『どういうことだ?』

『まだ確証がありませんので、大きな声で言えるものではありません』

『もう十分だと存じるのでございます』

『いえ、決めつけるのは時期尚早です』

『だからなんだっていうんだ?』

『気づきませんか?』

『……と言われてもな。えーと、魔人を魔神まがみとして崇めている。人は人同士で生活している。魔神まがみはそれを見守っている。そんな感じだと思ったけど』

『そうですね。共生関係というには、魔神まがみのメリットがなにもありません』

『崇められることで力を貰っているとか』

『古の神ならそうかも知れませんが、奴らは魔人です。そんなことはあり得ません』

『そういえばデイビーは神を信じているんだな。エイルに宗教は無いって聞いたんだけど』

『確かに神族はこの世界から去ったとされています。ならばいずれ戻ってくるかも知れません。勇者小説ファンの間でも論争の元になっているくらいです』


 うわ……

 いつの時代でも何処の世界でも、宗教は争いの元になるんだな。


『とにかく、見返りもなしに魔人が人間を保護するはずがありません』

『そうなのか?』

『共生なんて生ぬるいものではないのかも知れません』

『共生じゃないってことか?』

『相利、片利、中立、寄生、片害、競争といったどの共生にも当て嵌まりません』


 共生ってそんなに種類があるの?!

 一種類しかないと思ってたよ。


『まるで……』

『まるで?』

『ですから、まだその確証がありません』

『そんなことはないと存じるのでございます。兄様、魔神まがみ様たちは――』

『まだ決めつけるのは早いのですっ』

『分かった分かった。俺にはちょっと特殊な生活をしているな程度にしか思わなかったけど、2人は違うんだな』

『はい』

『左様でございます』

『それは今話せないようなことなのか?』

『話せるのでございます。兄様、魔神まがみ様たちは――』

『ですから確証が無いうちは話すべきではありませんっ』

『ナームコ、この件に関しての決定権は中央省にある。デイビーに従え』

『存じたのでございます。大変失礼したのでございます』

『いえ、お気になさらず』

『だが中央へ報告する前に、必ず俺たちに話せ。分かったな』

『了解しました。ですが、僕たちよりモナカ様たちの方がよくご存じでしょう』

『〝俺たち〟?』


 共生じゃなきゃなんだ。

 俺たちの方がよく知っているってなんのことだ。

 俺たちの共通点と言えば、全員異世界人ってことくらい。

 つまりこの世界より異世界の方が普通っていうもののことだよな。

 で、ここと共通していること……なんだそれは。

 この世界との共通点じゃなくて?

 余計分からないぞ。

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