第24話 お前は乙女じゃないだろ

「あ、ナーム叔母さん」

「なんだ?」

「んとね、お耳貸して」


 内緒話?

 珍しいな。

 鈴ちゃんはイヤホンしていないから、秘匿通信内緒話が使えない。

 アニカでさえ使えるんだから鈴ちゃんなら簡単だろうけど、なんとなく渡していない。

 元々ナームコとエイルたちが会話するための通訳用魔法杖マジックワンドだからな。

 鈴ちゃんは翻訳の必要無く聞いて話せるから凄いと思う。

 読み書きはどうなんだろう。

 でも〝叔母さん〟と言われても〝お姉さん〟と訂正しなかった。

 とうとう受け入れたのか?


「そうか、分かった」

「どうかしたのか?」

「いえ、大したことではないと存ずるのでございます。娘、なにかあったらまた報告しろ」

「はい」

「鈴?」

「んや?」


 う……ナームコに対しては真顔で接しているのに、俺には子供らしい可愛い顔を向けてくるんだよな。

 わざと……という感じではないし、水槽の中だと俺に対しても大人びた顔をしている。

 無意識に切り替わっているのかな。


「なぁに?」

「あ……ううん、なんでもないよ」


 〝パパには内緒かい?〟と聞きたいけど……聞いて困らせるのもな。

 ならば。


『おい義妹』

『はうぅ!』

『な、なんだ!』

『兄様がわたくしのことを〝妹〟とお呼びになられる衝撃に打ちのめされたのでございます』

『ならもう二度と呼ばん』

『兄様?!』

『それと〝義妹〟な。さっき鈴ちゃんとなにを話したんだ?』

『ですから大したことではないのでございます』

『大したことじゃないなら話せ』

『乙女の秘密でございます』

『なんだそれは』

『おほほほほ』

『笑って誤魔化すな。でもそうか。乙女か……』

『兄様?! まさか……まさか兄様が乙女と認めてくださるときが来ようとは……うう、わたくし、感涙で溺れてしまうのでございます』

『なに言っているんだ。鈴ちゃんが乙女なのは当たり前だろ』

『……兄様?』


 乙女か……

 それなら仕方がないか。


『その……わたくしも……』


 でもそれならなんで時子ママじゃなくてナームコ叔母なんだ?

 いや、詮索したら可哀想だ。


『乙女ということでよろしいでございましょうか』


 ナームコも一応女だし、きちんとしてくれるだろう。


「モナカくん、建物が見えてきたよ」

「お、あれか」

『兄様……』


 遠くに小さく見えてきた。

 あれが目的の場所だろう。

 左目スマホのカメラで拡大してみてみたが、なんだろう。凄い違和感がある。

 体育館? みたいなところで、アパートとかマンションとか、とにかくそういった人が住むような外観には見えない。


『集会所かなにかか?』

『でも地図だと他の建物も同じような輪郭だよ。あそこに住んでるんじゃない? ドローントンボで見てくる?』

『いや、もう目の前だ。それに隠れる必要が無いんだからいいよ』

『分かった』


 屋根は普通の家よりは高い程度の1階建て。

 大きな長方形で壁には窓が幾つか並んでいる。

 その隣に正方形の建物。

 前回みたいな離れかなにかか?

 向かっているのは大きな建物の方らしい。

 ここの人たちがその中に入っていくのが見える。


「つ……きまひた。少しおまひくだひゃい」


 あれ、中に入るのかと思ったら外で待たされるのか。

 案内してくれた人も一緒に待ってくれるらしい。

 この人にとっては地獄なのでは……


「ありがとう」

「あ……あにょ!」

「ん?」

「あ……いえ、なんでもあひません」


 なんでもないという割にチラチラとこっちを見てくる。

 もしかして脅えているんじゃなくて緊張しているだけ?

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