第3話 報告

「まぁ待ちなさい」


 支部長の後ろから誰か出てきたぞ。


「デイビー補佐官!」


 デイビー補佐官?

 聞いたことのある名前が出てきたぞ。

 無駄に背が高くて姿勢が良い姿。

 銀色で短くてくせっ毛のない女の子がうらやむであろうサラサラな髪。

 狐目に泣き黒子。

 やっぱり中央省異世界部門のヤツだ。

 なんでここに……俺たちに会いたいヤツってまさか!


「お久しぶり……と言うほど日は経っていないでしょう」

「そう……ですね」

「ジョゼフ支部長、場所を変えましょう。人が居るところでは話しにくいこともあります」

「分かりました。では私の部屋へ行きましょう」


 あからさまに態度が違うぞ。

 そういえば、前回話をしたときも応対が丁寧だったような気がする。


「そうしましょう。お2人……いえ、3人ともよろしいですね」

「3人?」


 俺と時子と……タイムのことか。

 別に隠れているわけじゃないけど、今は俺の中に居る。


「……分かりました」


 ここは大人しく従った方がいい。

 どうせ話さなきゃならないことなんだ。

 お偉いさんにだけ話して後は任せる。

 できれば周りには黙っていてほしいけど、少なくともデニスさんのことはそうもいかないだろうな。

 支部長室と書かれた部屋まで案内される。

 前回もこの部屋に案内されたから、2度目になる。

 中に入ると前回同様秘書と思われる人が1人居た。

 そして前回同様更に奥の部屋へと案内される。

 ということは前回同様奥側のソファーへ座ることに……予想どおりなった。

 やはり簡単には逃げられないように入り口付近には座らせてくれないか。

 ※違います。


「ジョゼフ支部長、申し訳ないが席を外してもらえますか」

「えっ、私も……ですか」

「すみません。この件に関しては中央省の管轄ですので」

「分かりました」


 そんな簡単に引き下がるんだ。


「身分証の解析結果は直ぐ僕に送信してください。勿論もちろん、口外無用です」

「分かりました。失礼します」

「あ、支部長さん。僕たちに会いたいという人は……」

「それは僕のことです」


 ああ、やっぱりそうなんだ。

 この部屋の主であるはずの支部長さんが退出していく。

 部屋にはデイビーさんと俺たちだけになった。


「よく僕たちがここに来ることが分かりましたね」

「予言者がそう予言していましたから」


 なるほど。

 よく当たる予言者だ。


「そう警戒しないでください。貴方方をどうこうできるとは思っていません」

「何故ですか?」

「いとも簡単に結界を越えられる方々をどうこうできるほどの力は、中央省にはありません」


 本当だろうか。

 予言者の力を駆使すればどうにかできるんじゃないか。


「そこで貴方方にご協力を願えれば……と思いまして」


 協力……ね。


「今までとなにが違うのですか?」

「あくまでお願いなので、強制は出来ないということです」

「つまり拒否してもペナルティはなにも無い」

「はい」


 それを素直に信じていいのだろうか。


「報酬も最低で倍をお出ししましょう」

「倍?!」


 それは逆に怪しくないか。


「それだけ危険なことということでしょうか」

「それは分かりません……が、そうなることは確実でしょう」

「それも予言者が?」

「いいえ。僕の経験則です。ですが、貴方方なら問題ないと判断しています」

「その根拠は?」

「デニス様を見つけ出し、身分証を持ち帰ってきた。十分では御座いませんか」


 十分なもんか。

 確かに移動だけなら簡単だ。

 それに今回は居場所が分かっていた。

 その一方で魔人に対しては戦力不足。

 相手に殺す気が無かったから勝てた……勝たしてもらえたようなもの。

 俺たちでは不十分だ。


「ご納得頂けていないようで御座いますね」

「当然です。僕たちでは力不足です」

「ふむ……それはエイル様が残られたことと関係あるので御座いますか」


 無言で頷き、そのまま顔を上げることが出来なかった。

 何故俺たちを頼らず1人で行ったんだ。

 そんなに頼りなかったのか。

 一緒に行ったであろう誰かの方が、俺たちより頼りになるってことなのか。

 結界の外は危険だ。

 少しでも頼りになる人の方がいいのは分かる。

 だからって……


「それでは、今回の結界外探索のご報告を兼ねて、エイル様、そしてデニス様となにがあったのか、教えて頂けますか」


 無慈悲に追い打ちを掛けてくる。

 報告……か。元々協会にはしようと思っていたことだ。

 相手が中央省なのは癪だが、なにがあったのかポツポツと話し始めた。

 村のこと。地下都市のこと。魔人と魔物のこと。

 デニスさんとのこと。

 そしてエイルのことを時子が……

 デイビーさんは口を挟むことなく、最後まで聞いていた。

 それがかえって不信感を募らせた。


「驚かないんですね」


 結界の外に人が暮らす村があったんだ。

 驚かないはずがない。


「予言者からある程度のことを予言されていましたから、半分以上はその事実確認ですので」


 また予言者か。

 でも半分以上だから全部じゃない。

 予言者でも予言できなかった?

 それともしなかった……

 どうなんだろう。


「残りの部分では驚かなかったのですか?」

「十分驚いています」


 その割には表情が変わらなかったと思うんだけど。

 うん、この人とカードゲームをやったら絶対ダメだ。

 勝てる気がしない。


「魔人と化した人間と会話など……しかも理性的な会話を交わした記録は残っておりません」


 確かに理性を失ったデニスさんの反応を考えると、会話なんて不可能だ。

 あれが魔人本来の姿なんだろう。


「ですが、貴方は理性的な会話を交わしている。これが事実なら驚嘆すべきことです」


 ならそれなりの反応を見せてくれ。

 とても信じられない。

 事実だと思っていないから表に出ていないとかか。

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