第2話 報告

「どうかされましたか?」

「いえ、なんでもありません」


 さっきのことが顔に出ていたのかな。

 受付のお姉さんに心配されてしまった。


「これ、デニスさんの身分証です」


 ポケットから取りだしてカウンターの上に置く。

 毒素は完全に抜けているから問題ないだろう。


「デニスさん? もしかして結界の外で行方不明になった、あの?」

「そうです」

「え?」

「うそ!」

「見つかったのか」

「俺、支部長呼んでくる」


 なんだなんだ。

 いきなり騒がしくなったぞ。


「帰っていらしたんですか? ベリンダさん、ゲートからそんな報告ありましたか?」

「あったらうの昔に大騒ぎになっていますよ」

「ですよね。すみません、確認させて頂いてもよろしいですか?」

「はい。提出するように言われていますので」

「デニスさんにですか?」

「いえ、娘のエイルにです」

「そういえば姿が見えませんね。いつも御一緒でしたのに」

「ええ、まあ……ははっ」


 まさか結界の外に置いてきたとは言えない。

 それが例え本人の意思であってもだ。

 受付のお姉さんが身分証を受け取ろうと手を伸ばした。


「待ちなさい! 触ってはダメよ」


 いきなり隣の受付のおばさん……こほん、ベリンダさんが声を荒げて制止してきた。

 やっぱそうなるよな。


「大丈夫ですよ。毒素の心配はありません」

「確かに見た感じ問題はなさそうではありますが……汚染された跡が見られます」

「大丈夫だ。問題ない」

「ジョゼフ支部長!」


 そういえば支部長を呼んでくるって言っていた人が居たっけ。

 アニカがやらかしたときに会って以来だ。


「しかし確認しないことには……」

「そこの娘――トキコだったか――は毒素を無くすことが出来るんだ。そうだったな」

「はい。できます」


 なんで知っているんだ。

 このことを知っているのは俺たち以外だとレイモンドさんくらい?

 その報告書にでも書いてあったとかか。

 でもレイモンドさんは中央省の人。

 狩猟協会にそんな情報をわざわざ回すだろうか。


「そんなことが……」

「心配なら、俺がやろう」


 そう言って身分証を無造作に取った。


「ふむ。確かに汚染された跡が見えるな。が、毒素は感じられない。問題なかろう。問題は機能するかだが……ほう、使えはしないがデータは取れそうだな」


 へー、ちょっと見ただけでそこまで分かるのか。

 だから支部長なんてやっているのかな。


「しかし驚いたな。本当に来るとは」

「え?」

「お前たちに会いたいという方が……ん? エイルは居ないのか?」

「はい」

「何処に居る。呼んできてくれ」

「それは……その……今は僕が代表なので……」

「なに? どういうことだ」

「えーと……」


 うー、さすがに話さないわけにはいかないか。

 仕方ない。


「エイルはひとり結界の外に残りました」

「ああ?!」


 予想どおりというか、一斉に周りがざわめきだしたぞ。

 聞き耳立ててたんだろうな。

 盗み聞きとか、やめてください。


「どういうことだ。デニスと一緒ではないのか? 大体デニスは何故顔を見せない」

「え、えーと……っはは」


 うー、ここで言うのか?

 ただでさえエイルのことで注目を浴びているのに、〝俺がデニスさんを殺しました〟……なんて言えるわけがない。


「黙ってないで言ったらどうだ」


 ……諦めて全部話すか。

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