第70話 現代化学の錬金術。ボク、悪い手乗りウサギじゃないよ!

 街のお偉いさんがやってきた。


 本当にお偉いさんらしく、お付きの人数が7人もいた。


 内訳としては、一人が秘書で六人は護衛の高ランク冒険者。

 まあ、アルマン副市長って言われてるので本当にエライんだろう。



 で、他にも冒険王のマルクスさんも来てるな。

 自分の商会から何人も人間を連れてきているようだ。


 っていうか、実は砂糖の激安販売が街でかなり話題になっていて、商会のお偉いさんとしても一度ここを訪れたかったらしい。


「で、今度から砂糖の他にこれも街で捌きたいんだが……」


 と、俺はそう切り出した。

 まあ、宴会の前に商談って訳だな。

 酒が入っている状態で真面目な話もできないのは当たり前の話だ。

 と、まあそんなこんなで、俺はリビングのテーブルに白い球を100個ほど転がせた。


「真珠……ですか?」


 その言葉を皮切りに、一同が息を呑んだ。

 まあ、真珠っていえば、日本でもそうだけど、ここでもかなりの高級品だ。


「しかし、タツヤ? 海はこの近くにはないよな?」


 マルクスさんが訝し気に俺に視線を送ってくる。


「厳密に言うと本物ではないけれど、ほぼ同じモノのはずです」


 要は真珠ってのは、炭酸カルシウムの結晶だからな。


 昔にテレビで人工真珠の作り方みたいなことをやっている番組を見たことがあって、前に、俺はその詳細をネットで検索したわけだ。


 材料としてはマヨネーズや消石灰っていう手軽なものだ。

 マヨネーズはこっちの世界で自作することはできる。

 消石灰については1キロ数十円なので……一度取り寄せてしまえば後は真珠の大量生産も可能って訳だ。


 で、材料はいくらでもあるけど、実際にやってみると結晶化させるのが難しいらいんだよな。


 で、材料と工程は分かっているので、そこでドワーフの職人の勘と技術――つまりはカティアに頼ったということだ。


 彼女でも何度か失敗したようだけど、そこは職人さんなので途中でコツを掴んで、最終的にはキッチリと仕上げてくれた。



 アリサ曰く「本物ということにして売ってしまおうや!」とのことだが、とりあえず「それは不味いだろ」ってことで、頭にゲンコツを落としておいた。


 まあ、流石に人工真珠で天然モノと同じ値段は取れないわな。


 けれど、この世界ではそもそもからして真珠を人工で作ると言う発想すら存在しない。


 謎の超魔術の結晶ということで買い手が納得してくれる……という論理で、アリサ曰く「ま、半値から3分の1くらいではイケるんちゃうか?」とのことだった。




 ――つまりは、元手がタダでやりたい放題な感じになるわけだ。


 これぞ、まさに錬金術だな。


 とはいえ、あんまりやりすぎると真珠そのものの値崩れが起きてしまうので少量ずつを長期間かけて捌く的な感じで考えてるんだけどな。






 そこでアルマン副市長は「いやはや……」と絶句して、青ざめた表情でこう言った。



「冷帯のこの地方で砂糖の大量生産といい、真珠と言い……貴方達は一体何者なんですか? 私には神の御業にしか思えません」


「ま、そこは企業秘密ということで……」





 と、まあそんなこんなで。

 詳細な話はアリサが取り仕切り、俺はマルクスさんの商会を通して真珠の売却を行うことになったのだった。


 ちなみに市長さんからの赤ワインの販売許可はすんなりと通った。








 そして――宴会である。


「デビルボアの肉……ですって?」


 赤ワインを飲みながら、恐る恐ると言う風にデビルボアのトンカツにアルマン副市長は手を伸ばした。


「美味しいっ! サクってしていますねっ!」


 まあ、トンカツだからな。

 サクっとしてなければ、それはトンカツではない。


「赤ワインにも凄く合うっ! この甘辛いソースは何ですか? そ、それに……これはデスホークなのですかっ!?」


 カラアゲをパクつきながらアルマン副市長は目を白黒させていた。

 まあ、高難度の討伐対象ってことで、アホみたいな高値で取引されるシロモノだし、驚くのも無理はない。


「いやはや、このような高級食材は年に何度も食べられるものではありませんよ。しかし……恐ろしく豪勢な酒宴ですね。それでは、メインのドラゴンステーキを一口いただきます」


「うふふー、それはただのドラゴンじゃなくて、カイザードラゴンのステーキなのですよー♪」


 ソーニャの言葉にギョっとした表情を作って、思わず副市長は口の中のものを噴きだしそうになっていた。


「ゲホっ! ゲホッ! 普通のドラゴンの肉ですら帝都の超高級レストランですら食べられるかどうか分からないというのに……カイザーですか? 本当に私が食べても良いのでしょうか?」


「はは、まあ良いってことですよ。カイザードラゴンの肉は美味しいでしょう?」


「ええ、本当に。しかし、食材そのものも素晴らしいものばかりですが、料理人の腕も半端ではありませんね。全ての味付けが……まるで夢のようです」


 いや、カラアゲ粉とかトンカツソースとかなんだけどな。


 後、ワサビ醤油とか。

 まあ、この辺りはゼニゲバ神のおかげだな。


 と、その時……絶対に驚かせてしまうので小屋から離れておけと言った連中が入ってきた。


「ズルいのですー♪」


「宴会なのですー!」


「肉・肉・ニンジン・肉・ニンジン♪」


 まあ、手乗りウサギなんだが、それを見るや否や市長は表情を青色に染める。


「ひいっ! 手乗りウサギっ!」


 だから入ってくるなと言ったのに……。


「いや、大丈夫ですから」


 その言葉に手乗りウサギも頷いた。


「ボク、悪い手乗りウサギじゃないよっ!」


 どこでそういう小ネタを仕入れてくるのかは謎だが、その一言で市長も……かなりビビりながらも少しは安心したようだ。


「いや、手乗りウサギとは……驚きました」


 そうして市長はソーニャにマジマジと視線を送る。


「手乗りウサギがいて、そっくりの兎人がいる。と、いうことはこちらのお嬢さんは……?」


「はい、女王なのですよー♪」


 そうして、お約束通りに市長さんはその場で卒倒したのだった。









 で――。

 なんやかんやあって、みんながベロベロになった。

 やっぱり美味いものを食べると酒が進むのは仕方ないよな。




 ちなみに……最後はシメにみんなでラーメンを食ったんだけど、市長だけじゃなくてソーニャ達も含めて全員が卒倒していた。


 それでさ、かなり多く作っていたんだけど、瞬殺で用意した分なくなってしまって、爆食いしていた手乗りウサギとみんなとの間で険悪なムードが流れたんだ。


 で、仕方ないので袋タイプのチキンラーメンを取り寄せて、再度みんなに振舞ったら、これまた大盛況だった。


 うん、やっぱりラーメンはどこの世界でも大人気だな。




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