第64話 最強の男が出陣します

 サイド:鮎川マユ


 ここは山の中、山賊の洞窟の外の広場だ。

 そして、正に蹂躙状態だった。


「ギャアアっ!」


「お、お、お、お助けーっ!」


 手乗りウサギ達が山賊に飛び掛かり、針のような武器でチクチクチクチク念入りに刺されている。


 そうしてウロボロスさんが山賊の一人を捕まえて、右手で胸倉を掴んで持ち上げた。


「出しなさい」


「出す? え? 何をでしょうか?」


 そこでパシィンとウロボロスさんの平手打ちが山賊に炸裂した。


「あぎっ!?」


「出しなさい」


「だから何をっ!?」


 そのままパシィンパシィンと何度も何度もウロボロスさんは山賊に往復ビンタを食らわせ続ける。


「金をっ!」


 ――パシィン


「金貨をっ!」


 ――パシィン


「オリハルコン通貨をっ!」


 ――パシィン


「財宝をっ!」


 ――パシィン


「出しなさいっ!」


 山賊の両頬が見る間に膨れていき、オタフク風邪よりも遥かに酷い状態になっていく。


「ゆる……ゆっ……ゆるじでぐだじゃ……ぎゃっ!」


 ――パシィン


「クソ虫の命乞いは聞こえません」


 そして再度……往復ビンタが始まった。


 ――パシィン


「あびばっ!」


 ――パシィン


「ぷぎっ!」


「さて、これで少しは素直なお口になったでしょうか?」


 と、底抜けの笑顔をウロボロスさんが浮かべたところで、魔王コーネリアの高笑いが聞こえてきた。



「ふははっ! 山賊どもよ! 滅多に見れるモノを見せてやろう!」


 そうして魔王コーネリアは右手を頭上に掲げて――




「暗黒咆哮(ブラック・ドラグズジェノサイド)っ!」




 バカげた規模の魔力が魔王の掌に集まって、その時点で私は腰を抜かしてその場で倒れてしまった。


 更に魔王の額に第三の目――爬虫類のようなソレが開いた。


「くははっ! これはかつての地龍族の秘技――土龍の金色の咆哮を我が改良したモノじゃっ! 消し飛ぶが良いっ!」


 そうして魔王は右手を明後日の方向に向けて、遠くの山にエネルギー粒子砲を放った。



 ――ちゅどーん



 あ、山が一つ吹き飛んだ。


 いや、正確に言えば山の表面が吹き飛んだ感じで、赤土と岩肌だけのハゲ山状態になった。



「ふはは山賊どもよ! 必要以上にビビるが良いっ!」



 っていうか……必要以上にビビらせる為だけに、この人はそんなことやったの?


 ドラゴンゾンビも呼び出すだけ呼び出して、結局全く使ってないし……あ、そうか。多分、ドラゴンゾンビも必要以上にビビらせる為だけに召喚したんだ。


「もう……無茶苦茶じゃない。本当に何なのこの人たち……」


 と、そこで私はオジサンに視線を送る。


 すると、丁度、オジサンの背後に山賊が忍び寄っていたところで――


「危ないおじさん! 上位炎球(エルダーファイア)ーっ!」


「グギャっ!」


 火だるまになった山賊を見て、良し……と私は頷いた。


 完全に体も回復しているようで、魔法のキレも以前と変わらない。


 とりあえず、何故だかみんなはオジサンを守る気がないみたいだから、ここは私が守ってあげないと……。


 と、そこでAランク級の賞金首である山賊のお頭――私が数日前に敗北を喫した、かつての剣聖が穴から現れた。


「おいおい、なんだこりゃあ……」


 とりあえず、ドラゴンゾンビ100体を見た瞬間に戦意を完全に失っているのが見える。


 まあ、気持ちは分かる。


 現世に地獄が溢れたみたいなものだから、私でも逆の立場なら一瞬で死を覚悟するだろう。


「まあ、見ての通りの絶体絶命って奴だな。冒険者ギルドに引き渡すから……大人しくお縄につけ」


 オジサンの言葉で山賊のお頭は首を左右に振った。


「捕まれば縛り首だ。どうせ死ぬなら――せめて武人として死にたい。貴様らの中で近接最強は誰だ?」


 この人は帝都の方で色々あって賞金首になったんだけど、その前は愚直に剣に生きる武人だったと聞いたことがある。


 まあ、そんな人が最後に……魔王コーネリアに屠られることを望むのは理解はできるかな。


 今は悪人だけど、確かにこの人は愚直に真面目に剣に打ち込んだこともあった。

 まっとうな青春時代も……あったわけだ。

 だとすると、人生の最後に……唯一自分が他人に胸を張って誇れる剣で、最強の存在相手に試してみたい。


 そういうのは……分からないでもない。


 まあ、だったら、最初から外道に落ちなければ良かった話なんだけどね。


 


 すると、魔王コーネリアはしばし何やら考えてオジサンに言葉を投げかけた。


「お前様よ。クワを構えてやれ」


「え? 俺がやるの?」


「近接最強……とのオーダーじゃからな」


「おいおいマジかよ……面倒くせえな」


 と、そこで私は、魔王コーネリアが何を言っているのか……いや、何が起きているのか分からずにフリーズしたのだった。

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