第16話 制裁のはずなのに、そっち系になりました。もちろん全然嫌じゃないです



 と、その時――。


「お? 酒盛りかいな? それならウチもまぜてーな」


「おうアリサ。こんな夕暮れにどうしたんだ? 今日は来る日じゃ無かっただろ?」


「剥ぎ取り屋の方の仕事で近くまで来てな。素材が入ってればラッキーって言うのと……あわよくばタダ飯にありつこうって話や。ここの飯は滅茶苦茶美味いさかいな」


 シラーっとした感じでマリアが冷たい視線をアリサに送っている。

 まあ、俺もマリアと似たような心境なんだが……。


「悪いが今日は素材はないんだ」


 ギルドで買い取って貰ったからな。


「ありゃりゃそりゃあ残念や。それじゃあ、晩飯だけでもご同伴預かってもよろしいかいな?」


 今日のところはお引き取りを――と、言おうとしたところでマリアが大きく頷いた。


「私がアリサさんのために特別メニューを提供いたしますわ」


「特別メニュー?」


「ドラゴンのお肉でございますよ。お口に合わないでしょうか?」


「ド、ド、ドラゴンかいなっ? 食べるっ! 食べるっ! 食べるに決まっとるやないかっ!」


 マリアは軽く頷くとフライパンを持って調理場へと消えていった。

 っていうか、料理できんのか?

 まあ、冒険者として長年生活してたって話だしできないこともないんだろうな。

 そうして十分ほど経過して、ドラゴンの肝臓のステーキを持ってきた。


「おおっ! ドラゴンのレバー焼きかいなっ! こないもんは帝都の超高級レストランでも滅多に食べられへんでっ!」


「どうぞどうぞ。ご遠慮なくお食べ下さい」


 バクバクバク……と猛烈な勢いで焼きレバーをアリサは平らげていく。

 そしてマリアはニコニコ顔でアリサに赤ワインのお酌を始めた。


 ……あれ?

 と、そこで俺は違和感に気づいた。

 どうしてマリアがアリサをもてなしてるんだ?

 さっきまでめっちゃキレてる感じだったのに……?


「ん……? 変やな?」


 レバーを平らげたアリサが頬を朱色に染めて小首を傾げた。


「どうしたんだ?」


「何か……体が火照ってきたんや……」


 ユサユサと狐の尻尾を揺らして、ピクピクと狐耳も動いている。

 パタパタと手で顔をあおぎながら、アリサは艶めかしい吐息をついた。


「変じゃないですよー?」


「どういうことだソーニャ?」  


「アークドラゴンのレバーはですねー。普通のドラゴンとは違うですよー。マジックアイテムみたいなもんなんですー」


「……ん?」


「アレを食べると獣人系は発情期に入る効果があるですよー♪」


 そこでマリアはニヤリと笑った。


「タツヤ様は……色々と凄まじすぎて私達二人だけでは体がもたないのでございますわ。私も思うところがありまして――それが狐耳に対する私の制裁でございますのよっ!」


「うふふー。今日はアリサも参加するですー♪」


「タツヤ様の凄まじさに……恐れおののきなさいなっ!」


 と、そこでアリサが俺に艶っぽい視線を送ってきた。


「アカンっ! ウチは発情期に入ると……ほんまにあかんのやっ!」


「いや、でもさ……」


「ウチのこと……嫌か?」


 と、そこで俺は素直な気持ちでこう言った。


「いや、全然嫌じゃないです」


 まあ、そんなこんなでその日は大変なことになった。

 そして翌朝、アリサは目の下にクマを作って「タツヤ兄やん……あんた滅茶苦茶やな」との言葉と共に街へと帰っていった。

 それで、結局はボッタクリ事件についてどうなったかと言うと――


 ――その日以降、アリサは俺からボッタクリをすることがなくなったが、代わりに来るたびにドラゴンのレバー焼きをねだられるようになった。

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