リバース魔法少女

渡貫とゐち

1章 息苦しい世界平和(抑圧こそ本末転倒)

第1話 最悪の出会い方

「はい、じゃあ次はスポーツテストだから……体育館ね」


 健康診断の用紙を保健の先生から受け取り、言われた通りに体育館へ向かう。

 人の波に乗りながら、用紙を上から流して見ていく。


 天条てんじょうもぐら、十四歳。

 身長と体重は平均的……、

 去年と大して変わらない数値を見ながら……まあこんなもんか、と呟く。


 スポーツ経験はなし、部活にも入っていない。

 取り柄と言えば、弟と上の妹とプロレスごっこをしていつも勝てないため、負け続けたことで体が頑丈になっていること、だろうか。

 だからって喧嘩が強いわけじゃない。


 同級生の男子にはもちろん勝てないし、

 腕相撲だって文化部とどっこいどっこいじゃないだろうか。


 大衆に埋もれる程度でしかない、ごく一般的な男子生徒が、俺だ。


「結構がんばってるのに報われないなあ……いや下心なんてないけども……ん?」


 体育館へ移動する人の波からはずれて、窓の外の景色を見ていると、校舎の裏。

 ほとんど人がこない狭いスペースの茂みの中に、だ。


 女の子が座っていた。


 スポーツテスト後なのか、体操着は土で汚れている。

 前面までびっしりと汚れるようなテストってあったっけ? 

 それに、手に持つ用紙もくしゃくしゃになってしまっている。


 季節は五月下旬。

 梅雨入り前の春らしい春日和。


 にしても、例年に比べると年々暑くなってきている。

 今日も真夏日と同じ最高気温だ。


 セミも鳴いていたら完全に夏ってくらいの気温である。

 女の子が座っている場所は日陰になっているとは言え、風がない今日はたとえ日陰でもきついものがある。


 わざわざそんなところにいなくても……教室に戻ればいいのに。

 真夏日並ということで特別に冷房が解禁されている。

 溶けるような暑さの外とは別世界だ……それは俺たち二年生だけでなく、上級生も下級生も同じであるはずだ(年中無休で職員室は冷房と暖房が効いているがな!!)。

 教室の方が絶対に快適なはずなのに……。


 ま、考えられるとすればだ。

 その教室が、冷房関係なく快適ではないのかもしれないな。



 巨大な室外機と校舎の壁の隙間を抜けて入れる狭いスペース。

 穴場に思えるかもしれないが見上げた窓からは丸見えなのでそうでもない。


 こんな場所で告白でもしようものなら晒しものになるだろう。

 そんな場所でも、学校の壁の外に立っている木から伸びた枝が校舎内まで伸びているため、生まれる日陰が、唯一、上から見えにくい場所になる。

 見えにくいだけで決して見えないわけではないのでやはり穴場にはならないだろう。


 ともあれ、さて前方。

 腰の高さの茂みの奥にいる女の子の姿が、茂みに入らずとも見えた。


 さっきとは違って体育座りで顔を伏せて、塞ぎ込んでしまっている。


 ふむ。


 体操着の色が青色なので一年生か。

 ちなみに二年は緑、三年は赤色だ。


 卒業した三年生の色が入学してくる新一年生の色になるので、

 ぐるぐるとこの三色で回っていることになる。


 ふうん。

 そうなると来年入学してくる上の妹は赤なのか……と、それはともかくだ。

 声をかける前に茂みに入ることにした。


 がさがさっ! と草木を退けた音に反応して顔を上げた一年生の女の子と目が合う。

 当たり前だが、警戒しているのだろう……突然、目の前に現れた上級生の男子だ。


 上級生でなくともひとけのない場所で男子と二人きりというのは女子からすれば恐い。

 だからまあ……先に仕掛けた方が、主導権を握れる。


「――うおっ!? ご、ごめん!? 

 まさか人がいると思わなくて――すぐに出ていくから安心して用を足してくれ!!」


「…………! ……ッ!? っ、え、いや――ちがっ!? ちがいますよっ!?」


 茂みから出ようとする俺の手を、女の子の方から掴んできた。


「してませんししませんよ!? 

 するわけないでしょう!? こんな場所で、その……」


「その?」



「の、野ションなんて!!」

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