Ⅷ イチイの槍(1)

「コンハートの者どもに先をこされるなあーっ!」


「ウルスターもマグ・メルもともに蹴散らせえ~っ!」


「絶対に客人とフラガラッハを守り抜くぞおっ! マグ・メルの戦士の心意気を見せてやれえっ!」


 そうして、ウオフェがハーソンを焚きつけていた間にも、激突した三勢力の軍勢は組んず解れつの大乱戦を始めている。


 上空には幾百の投げ槍や投げ矢ダーツ投石紐スリングで放たれた石が飛び交い、その下では剣と盾を手にした戦士達が火花とともに激しい金属音を響かせている。


「フン! 我が槍を使うまでもない。こいつでひき殺してくれるわ!」


「いや、そいつの首は俺のものだ!」


 また、その兵士達を強引に押し退け、戦車チャリオットに乗るクゥ・クランと徒士かちのフェー・ディアードもハーソン目がけて突進して来る。


「では、打ち合わせの通りに。ご武運を祈ります……」


 それを目にするとウオフェは即座に行動を起こし、ハーソンに断りを入れてから杖を構えてフェー・ディアードの方へ向かってゆく。


「いきなり実戦になってしまったが、では、試してみるとするか……フラガラッハ! あの戦車の車輪を破壊しろっ!」


 対してハーソンも高速で近づいてくる戦車チャリオットへ向き直ると、手にした魔法剣をそちらへ掲げてそう命じた。


 と、次の瞬間、それまでのじゃじゃ馬ぶりが信じられないくらいに、〝フラガラッハ〟は自ら素直に鞘走り、くるくる回転しながら宙を舞うと、真っ直ぐ戦車チャリオットの方へ襲いかかってゆく。


「……! あれはまさにフラガラッハの…うおおっ…!」


 一瞬の後、高速回転する鋭利な刃は片側の車輪を一撃で粉砕し、バランスを失ったクゥ・クランの戦車チャリオットは派手に轟音をあげて転倒した。


「戻れ! フラガラッハ!」


 一方、今度はそうハーソンが声をかけると、車輪を破壊した魔法剣は回転しながら急速反転し、やはり素直に飛んで戻ると、その柄は彼の手の中へ絶妙なタイミングをとって納まった。


「信じられん……本当に俺の意思通りに動いてくれる……まるで、手に持って振るっているかのようだ……いける。これならばいけるぞ……」


 なんとも不思議な心持ちなのであるが、あたかも自分と魔法剣が一心同体になったかのような感覚を抱いたハーソンは、ようやく自身がその持ち主となったことを実感すると、その渦巻き模様の施された柄を力強く握りしめた。


「まさか、本当にフラガラッハを操れるとはな。少々、見くびりすぎていたようだ……しかし、さすがはマナナーンの魔法剣、やはり、ぜひとも我がものとしたいものだ……」


 しかし、横転した戦車チャリオットの方へ視線を戻すと、御者はともに投げ出されて気絶したものの、クゥ・クランは一瞬早く飛び降りたため、無傷な上に暢気にも〝フラガラッハ〟の威力に感心している。


「失礼なことをした、どこの馬の骨とも知らぬ戦士よ。今度は我が〝恐槍ドゥヴシェフ〟を以てお相手をいたそう」


 そして、手にしていた見事な大槍を構えると、ようやく真に戦士の顔になって、ハーソンにその槍先を突きつけた。


「……あ! 言い忘れましたが、クゥ・クランも魔法の武器を持っています! くれぐれも気を付けてくださいね~!」


 そんなところへ、フェー・ディアードと相対していたウオフェが、思い出したかのようにそんな助言を横からしてくれる。


「そういうことは、もっと早く言っておいてもらいたいものだな……」


 その今さらながらの重要な情報に、ハーソンはまたもその顔を渋くさせた。

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