ラブマックス・フルパワー・ウォーリア 〜幼馴染に恋する戦士〜

クマ将軍

プロローグ それが物語の始まり

第1話 カラク村のノルドとサラ

「サラ!! 好きだぁ!!」

「……ありがとう、でもごめんね……じゃあこの小麦粉を持ってガンマおじさんに持ってってね」

「あ、はい」


 渾身の告白をいつものように断り、その次に可愛らしい笑みを見せて青年に頼む少女サラ。彼女の頼み事に青年ノルドはまるで水を被せられたかのように冷静になり、彼女の示す小麦粉の袋を見遣る。


「おいおいサラの嬢ちゃん……男の告白をそんな流すなんて……」


 二人の関係を知らない商人が告白を振ったサラに言うが、彼女が何かを言う前にノルドが手を振って大丈夫だと言う。


「大丈夫ですよ、いつもの事なんで」

「おいおい、いつも告白をして撃沈されてんのかアンタ……そりゃあお気の毒やら諦めが悪いやら……」

「諦めが悪いだけっす! 明日も挑戦しますよ!!」

「あはは……」


 ノルドの宣言にサラは頬を掻きながら苦笑いを浮かべる。だが困っている様子ではなく、どこか申し訳ないような表情だ。


「それじゃあこの小麦粉を運べばいいんすね!」

「ちょ、おいおい兄ちゃん! こんな量の小麦粉を一人で持てる筈がねぇよ!」


 見れば小麦粉は一袋三十キロの小麦粉が六つ、商人の荷馬車に積み込まれていた。全部で合わせて百八十キロの重さだ。


「確かに兄ちゃんってば図体デカイがなぁ……流石に一人は無理だぜ」


 ノルドの身長は二メートルに届いており、服の上からでも分かる立派な筋肉から誰も知らない人が見れば歴戦の戦士だと思うだろう。ノルドの人懐っこい青年のような顔立ちが無ければそう勘違いしていたかもしれない。


「大丈夫っす!! こう見えて俺、力持ちっすから!!」

「あっおい兄ちゃん!! あぁもう嬢ちゃんからも止めてやってくれ!」

「気持ちは分かりますけど……本当に大丈夫ですよ」


 商人が止めるもサラはやんわりと大丈夫だと言う。それでも信じられない商人は誰か人を呼ぼうとするが、商人の目の前で信じられない光景が広がる。


「よい……っしょ!」

「……はぁ?」


 ノルドは、自身の両肩に小麦粉の袋を三つずつ載せたのだ。

 あまりにも常識外れな光景に、商人の顎が外れるかと思うほど大きく口を開けて呆けてしまう。そんな商人の姿に慣れているのか、サラは何も言わずに商人に別れを告げる。


「それじゃあ次もよろしくお願いしますね〜」

「……あ、はい」

「それじゃあおじさん、また!」


 二人の姿が遠ざかるも、商人はまだその場所で呆けていた。



 ◇



 カラク村のノルドとサラ。


 近隣村民の誰もが知っているカラク村の有名人だ。

 二人共両親のいない孤児ではあるが、ノルドは恵まれた体格や常識外れな力を使って村の重労働の約八割を担う『超人』として、サラはその可愛らしい容姿と誰とでも優しく接する性格、そして彼女の持つ豊富な医療技術によって村人の内外を癒すその姿はまるで『聖女』という事で近隣村民にまで知られていた。


 だがそれ以上に有名なのは、ノルドはサラの事が大好きで毎日告白をしては玉砕される話だ。一体いつから告白をしていたのかは分からない。彼らと同年代の子供に尋ねると、ノルドがサラに告白をしている毎日が日常だから気にした事は無かったと言う。つまりそう認識されている程昔から告白してきたというのだ。


「サラァ!! 俺は君の事が好きだ! 海よりも深く、空よりも高いこの恋を受け止めてくれ!!」

「……ごめんね、ノルド」

「あ、はい」


 毎回告白しては玉砕されるノルドを不憫に思うかもしれないが、サラはサラでノルドの告白に嫌がる素振りは見せず、寧ろ申し訳なさそうに断る彼女の姿に何も言えなくなる。


 しかしノルドは知っていた。

 何故サラがノルドの告白を断るのかを。


「まぁ……サラは勇者の事が好きだもんなぁ……」


 幼少の頃に語ったサラの夢。

 それは勇者と呼ばれる人と旅立ち、結婚し、幸せに暮らす。それがかつてのサラがノルドに語ったサラの見た夢。その日からノルドの恋は破られてしまったが、それでもノルドは諦めたく無かった。


「勇者と結ばれるまでは……俺はこの恋を貫いて見せる」


 そう密かに決心していたのだ。



 ◇



 ある日、ノルドとサラの保護者である村長が二人を連れて王都に行くと言い出した。


「え、何で?」

「王都でちと用事があってな。それでこの機会にお主達を連れて行こうと思うたんじゃ。お主達は、その年になってまだ王都に行っとらんじゃろ?」

「でもお爺ちゃん、何かと理由を付けては私達を連れて行ってくれなかったじゃない。ねー」

「ねー」

「ええい、結ばれておらん癖に何で息が合うんじゃお主ら!」


 示し合わせたかのような二人の連携に村長がツッコミを入れる。しかしこのやり取りもいつも通りの事で、村長はコホンとわざとらしく咳をし、説明をした。


「わしはな、赤子の頃からお主達を育ててきたんじゃ……例えこんなに図体がデカくて筋肉隆々のゴリラみたくなっても、例えこんなに可愛らしい天使のような姿になっても、危険な外に行かせたくはないのじゃ……」

「爺ちゃん俺の時だけ酷くね?」

「じゃがお主らの人生をこの村で終わらすのは少々酷だと思うようになり、王都で世界を見てきて欲しいと思ったのじゃ」

「無視かよ」


 ノルドとサラは既に成人の年齢を過ぎ、十七歳になっていた。もう結婚してもおかしくない年頃だが、ノルドはサラの事が好きだし、サラは叶う筈のない恋を抱いていた。故にこの年になっても結婚してはおらず、村長はこのままだと一生独り身で過ごすのかも知れないと危惧して二人を王都に連れて行こうとしたのだ。

 世界は広く、王都に行けば何か出会いがあるのではないかと期待して。後はそろそろ孫を見たいという本心もあるが。


「という事で明日、お主らを王都に連れて行くぞ」


 村長の言葉に二人は顔を合わせ、そしてうんと息ぴったりに村長の提案を受け入れた。


「……それで何でお主らは結ばれておらんのじゃ」


 村長のいつもの問いに、ノルドとサラは笑って誤魔化した。



 ◇



 ラックマーク王国。

 世界有数の大国にして、愛と調和の女神ラルクエルドを信仰するラルクエルド教発祥の地。そして代々魔王を討伐するための勇者パーティーを輩出してきた国でもある。

 だが前回の魔王の脅威からは既に数百年の月日が過ぎており世界は平和に満ちていた。今やラックマーク王国はかつての伝説を勇者物語という娯楽として楽しんでおり、勇者という存在は武闘大会の優勝者に送られる名誉の称号となっていた。


「……だって!」

「へー勇者と魔王かぁ……」

「勇者だって! 勇者!」

「あーうん分かった分かったって……」


 いつになくサラのテンションが上がっていた。

 夢見ていた勇者が、称号だけでも王都に存在しているという行商人の話にサラは興奮したのだ。対してノルドはサラの様子を見て不貞腐れていた。

 まさかライバルの話がこれから向かう王都にいるかも知れないという事実に、ノルドのテンションはかなり下がって行く。


「こりゃあ俺史上最大の危機かもしれん……」


 ならばサラが勇者と出会う前に。


「サラ! 俺と付き合ってくれ! ください!」

「……あ、ごめん聞こえてなかった」

「……あ、はい……いえ、何でもないです」


 興奮してノルドの話を聞いてなかったサラに、ノルドは肩を落として気落ちした。


 王都に到着したノルドとサラは王都の周囲にそびえ立つ外壁の壮大さに目を見開き、口を開けていた。中に入ると祭りの時の村よりも遥かに超える活気に二人は圧倒される。

 これが人口二〇万人を超える王国。

 これが世界有数の大国。

 その事実に二人は村の中の常識が崩れ去って行く。


「ほれ何をしておるんじゃ。さっさと中に入るぞ」

「ちょちょちょっと! 何だよここ! すげぇよここ!!」

「す、すごい! いっぱい! 人、いっぱい!!」

「お主ら落ち着け……揃いも揃って語彙力を失っておるぞ……」


 刺激が強かったのかも知れないとこの時の村長は思った。

 未だに興奮している二人を連れて歩く。サラの美貌に通行人は目を惹かれ、そしてノルドの体格に目を逸らす彼らを横目に、村長はやっと目的の宿に辿り着いた。


「よし着いたぞ」

「着いたぞって……何だよここ。どっかの金持ちの家か?」

「大きいね……お爺ちゃんって実は凄いのかな」


 サラのその発言に村長は傷付くような顔を浮かべるが、彼らの誤解を解くために顔を引き攣らせながら説明をした。


「……何って、そこの看板に書いてあるじゃろ。ここは宿じゃよ」

『宿ぉ!?』


 当然だが村の宿は目の前にある宿よりも小さい。

 村の中で一番大きい家といえば宿と答えるぐらいの常識があったのに、王都ではそれらの常識を易々と飛び越えてくる。

 目を回している二人にまたかとため息を吐き、呆然としている二人を連れて宿の予約を取る。気が付けば二人は自身の泊まる部屋におり、村長が「それじゃあ用事を済ますから、探索は程々にのう」と言って部屋から出て行った。


「……あれ? いつの間にか二人っきりになっちゃった」

「爺ちゃんは案内しないのかよ……」


 突然の二人きりに二人はどうすればいいか分からない。

 いや答えは先程村長が言っていた。そう、村長は探索という言葉を放っていた。つまりは王都を探索する、それが二人のやるべき事だと彼らは考えた。


「そうと決まれば」

「いざ王都探索!」


 やはり息ぴったりな二人だ。

 もしこの場に村長がいればどうしてと嘆く事だろうが、幸か不幸かこの場に村長はいなかった。

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