風花さんは今日も冷たい

りんごす

第1話

 あれは俺が中学3年生の時の話だ。高校受験へ向け、いよいよあと半年ほどとなった夏休み。俺は志望校の説明会を受けに行っていた。クーラーの効いた教室には俺と同じくこの高校に入りたいと考える同級生であふれている。


 説明会が始まるまであと10分ほどとなった時、教室の入り口から入ってきた少女を見て俺の時間は止まった。


 まっすぐに肩まで伸びた綺麗な黒髪。ぱっちりとした二重。小さな鼻に薄い唇。そして透き通るような真っ白の肌。小柄な体格なのに、出るところは出たメリハリの取れたスタイル。かわいいの中に綺麗が両立するその姿を見て、一瞬で心が奪われた。


 しばらく見つめていると、彼女は周りを見ておろおろしている。気になって周りを見てみると、どうやら空いている席が見つからないようだ。どこか空いているところはないかと探してみると、なんと俺の横の席が奇跡的に空いていた。


 やるなら今しかないと思った俺は、持ってる勇気全てを使い果たして彼女に声をかけた。



「すいません、空いている席を探してますか?」


「あ、そうなんです。この教室ちょっと広くてどこが空いてるのか分からなくて。」


「僕の席の隣空いてるんですけど、よければ座りますか?」


「本当ですか?ぜひお願いします」



 こうして俺は名前も知らない美少女と話すことができた。隣同士に座って、説明会が始まるまで少しだけ彼女と話す。



「優しい人が声をかけてくれて助かりました。本当にどこが空いてるんだろーなーって感じで、戸惑っちゃってたので」


「それなら勇気を出して声かけて良かったです!あ、僕の名前六辺香真白っていいます。」


「あ、自己紹介まだでしたね!私は風花天花っていいます」


「お互い同級生ですし、せっかくなら敬語で話さないで普通に話しませんか?」


「いいですね!じゃあこれからは普通に話すね!」


「ああ、じゃあ俺もそうさせてもらうよ」



 そうこうしているうちに説明会が始まって彼女との幸せなひと時も終わってしまった。しかし、資料が配られてすぐ、隣の風花さんから肩を叩かれた。



「ごめん、ボールペンを持ってくるのを忘れちゃったみたい。貸してもらってもいいかな?」


「全然大丈夫だよ。2本持ってるし、終わるまで貸すよ」


「何度もありがとう!終わったら返すね」 


「いえいえ、気にしないで!」



 説明会が終わり、彼女がかわいい笑顔と共にボールペンを返してくれた。



「さっきもいったけど、本当にありがとう!席のことといい、ボールペンのことといい、短い時間でかなりお世話になったね」


「本当にそんなに気にしなくていいよ。たいしたことしてないから」


「うーーん、分かったよ。じゃあ、それは別として、ここから最寄りの駅まで一緒に帰らない?」


 余計なことは言うまでもないだろう。俺はこの帰り道を絶対に忘れないし、志望校はこの高校一択になった。


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