第4話≪王に選ばれた者②≫
ルームと三人が呼ぶ場所に向けてホールを出た四人(一名は横抱き状態)は、そのまま廊下へと歩みを進めた。
「今から向かう場所を私達は略してルームと呼んでいるんだ。正しくは|王の部屋(シークレットルーム)と言う。そして、今はそれがある中央棟に向かっているんだよ」
横抱きにされたまま、ルイスから説明された。
付け加えて、あれが中央棟だとジュンが指を指して教えてくれた。
中央棟はその名の通り、学園の中央にある十階建ての建物で、学園内で一番高い棟である。
この棟には、|王の部屋(シークレットルーム)以外に事務室や教員室、会議室、|生徒会役員室(ナンバーズルーム)、学園長室等、学園運営に関わる施設及び部屋が入っている。
噂では地下も存在するらしいがとエリナが話してくれたが、詳しいことは見学では説明されなかった。
この棟に向かうには、学園の中央に向かって進まなければならない。
中央棟の周囲には生徒達が普段生活する講義棟もある。
つまり──
「見て見て!」
「|ⅩⅢ(キング)にまたお姫様だっこされてる!」
「羨ましいんだけど!」
「ていうかさ、あの子なんなの?」
「うっわ、マジかよ…引くわ……」
「本当にするやつ、いるんだな」
「あれって、お互いに恥ずかしくないのか?」
教室に向かって移動している多くの生徒に、その姿を見られながら歩いて行かなければならないということである。
ユンヌは、自分が今どんな状態なのかに早く気付くべきだったのだが、時、既に遅し。
ばっちりと、本日二度目の横抱きの姿を多くの生徒達に見られてしまった。
(あ、あわわわわ……み、見ないでーっ!)
咄嗟に手で顔を隠したが、恥ずかしさは消えなかった。
心の中で叫んだ。
しかし、その叫びは誰にも届きはしない。
もうこれ以上羞恥を晒したくないユンヌは、ルイスに降ろしてもらおうと考えた。
「あ、あの、もう自分で歩けるので、降……」
「……ん?」
降ろしてと言おうとする前に、NOと言わんばかりの微笑みをルイスに返されてしまった。
そのままルイスは歩き続ける。
(え、降ろしてくれない……ってこと?ど、どうしたら……あ!)
次に、強制的に降りることをユンヌは考えついた。
無理矢理にでも降りようとすれば、普通なら降ろしてくれるだろう。
そう思い、体勢を変えようとしたのだが……。
(わぁ!え、さっきより力が入った?)
行動を読まれていたかのようにさらにぎゅっと抱え込まれ、身動きが出来なくなってしまった。
これでは、為す術無く大人しく抱えられているしかない。
ちらっと顔を見たが、ルイスは何事も無い様子で前を向いている。
体もさっきより密着していて、触れている所からルイスの体温を感じる。
異性に横抱きにされていることをどうしても意識せざるを得ない。
これほどまでに、同じ年頃の異性との距離が近かったことは一度も経験が無かった。
(それに、お姫様抱っこなんて絵本の中の話だけだと思ってた……)
初めてのこと続きで、さらに、心臓がドキドキと鼓動を強める。
(このままじゃ心臓がもたないよ……)
手をぎゅっと握り、自分の心臓が持たなくなる前に早く目的地に着くことを祈るばかりだった。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
「あんなことしちゃって……」
「うふふ、よっぽどルイスは彼女を気に入っているみたいね」
少し離れた所から、ルイスとユンヌとのやり取りをミラとジュンは見ていた。
「それにしても、あんなに優しい表情でお姫様抱っこするなんて……。普段、女子生徒からいくら言い寄られても絶対しないような顔を、あの子には向けるのね……。どうして、ユンヌを選んだのかしら。新入生とほとんど面識は無いはずだけれど」
「確かに。俺達だって新入生とはあのホールで初めて会ったもんな」
「そうなのよ。でも、彼女の方は面識が無いみたいだったから、やっぱりルイスが一方的に知ってるってことなのかしらね」
「まあ、それは後で話を聞けば解決するだろうよ。それより、あの子。これから俺らの仲間になるんだろ?なんとなくだけど、俺達とも問題なくやっていけそうじゃないか?」
「奇遇ね、私もそんな気がしてたの。それに、私は女の子が入ってくれて嬉しいわ!ルームに着いたら、今日は腕によりをかけて紅茶を淹れなくちゃ、うふふ」
「お、それは俺としても楽しみだな。お菓子も付けてくれるんだろ?」
「もちろん!今日は何のお菓子にしようかしらね~」
後ろの二人はそんなことを話していたが、それはユンヌの知るところではなかった。
そして、ルイス率いる一行は大勢の生徒達がいる中校内を歩き続け、生徒達の注目を浴びながらも中央棟に到着した。
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