第8話 セックスレス

僕がセックスをしなくなったのはいつの頃からだろう? 正確には、僕が恋愛において、セックスに魅力を感じなくなったのはいつの頃からだろう。

僕だってオトコだし、人並みに性欲だってある。

男とは異なる『オンナのカラダ』に興奮だってする。それがなくなってしまうのは恐ろしい。

だけど、恋愛期間が長くなるに連れて、関係を結ぶという行為そのものが面倒臭くなるのも事実だ。


僕は行為そのものよりも、セックスに辿り着くまでの時間が好きで、相手のカラダに触れたり、艶やかな声や指先の汗、敏感な表情の匂いを感じる度に自分が男である事を実感する。

雰囲気を楽しみたいのだけど、それは自分をうんと偽りながらでないと難しい。

恋愛期間が長くなるとどうしても『偽り』切れなくなってしまうし、現実に埋没しながらのセックスが面倒になってしまう。

何を今更感が過るのだ。

大切だと思っていた雰囲気作りが億劫になって、彼女とのセックスのタイミングの波長が合わなくなっていく。

一人きりの寝室で自分を慰めては虚しさを感じ、それでも色欲に負けてまた自分を慰める夜。

結局、セックスなんてただの欲望のはけ口なのだろうか?



僕の脳裏に美咲さんの表情がチラついている。

あの日の夜、僕はちょっとだけ自分をさらけ出せた。嘘にまみれたネットの世界で知り合ったけど、2人で過ごせた時間は紛れもなく真実だ。

悩んだ末、僕は日曜日の朝にメールを送った。


『今日会えませんか?』


と。

美咲さんからはすぐに返信が届いた。


『夕方からで良ければ』


僕は人恋しくなっているのだろうか?

別れた彼女は結局、別に好きな人が出来ていたらしく、僕のちっぽけなプライドは傷ついていた。

怒りというくだらない考えを吹き飛ばしたくて、それに確かめてもみたかったのだ。

僕は美咲さんに恋をしてしまったのかどうかを。

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