魔法都市
第88話 魔法都市
おっす、おいらサージ。今、魔法都市ジェミダンの門前で入市待ちの列に並んでるのさ。
なぜかって? そりゃあもちろん、魔法学園に入学するためよ。
コルドバの動乱が終わって、痛感したね。
おいらには、とにかく力が足りないって。
まあ、比較対象があれなんだけど、姉ちゃんとかカーラさんは、言うなれば超サ○ヤ人。
イリーナが覚醒直前のサ○ヤ人ってとこかな。
おいらのポジション? それはまあ、栗だったらいいけど、せいぜい飲茶ぐらいだと思ったのよ。
だからおいら、せめて栗ぐらいまではレベルを上げたいと思って、いろんな人に相談した。
するとたいがい、魔法使いなら魔法学園に入学するのが一番だって言うのよ。
まあ姉ちゃんは実戦第一とか言ってたけどさ。あの人自分が化け物だっていう自覚に乏しいから。普通、強くなる前に死ぬから。
んで、魔法学園ならまずカーラ様だよなってことで相談したら、快く紹介状を書いてくれたね。
「あなたなら間違いなく立派な魔法使いになれます」
そう言ったあと、微笑みながら言い直したのさ。
「いいえ、あなたは既に立派な魔法使いですね。歴史に名を残す魔法使いになれるでしょう」
いや~、女神の微笑みってやつね。さすがは元聖女。慣れてきたおいらでもちょっと天にも舞うような心地だったもん。
あ、美人と言えば姉ちゃんも美人なんだけどさ。あっちはほら、言うなれば蛮族の女戦士のカッコ美しい系? カーラさんの清純派正統派モデル系とは系統が違うわけよ。
そんなことがあって、駅馬車や隊商の馬車を乗り継いで、はるばるここまで来たわけだけど。
「ああん、もう一度言ってみろ、坊主」
絡まれちゃったのよね。
「だから、この壁の高さだと、魔族の侵攻には耐えられないんじゃないかって」
うん、普通に並んでたんだけど、偶然この街の住人だって人が前にいたからさ。
こんな壁の高さで大丈夫かって聞いたわけよ。
何せギグの三倍ぐらいしかない市壁の高さだったからね。
そしたら、いざとなれば魔法の力で壁が作られるから大丈夫だって言うからさ。
変じゃん?
いざとなる前に壁を作っておけば、魔力を節約できるじゃん?
そしたら、魔力が枯渇することなぞありえない、とか言うのよ。
何かとんでもない魔法装置でもあるのかと思って理由を聞いたら、魔法都市の魔法使い全員で魔法を使えば、どれだけの魔物に攻められても、とか言うのよ。
おいら思ったね。
それ根性論じゃねえの?
まあそんな率直には言わずに、具体的にどのぐらいの魔物に襲われても大丈夫なのかと聞いたわけね。
はい、答えられません。どれだけでもだ、というのは答えではありません。精神論って言うのも違うんじゃね?
まあね、おいらもね、姉ちゃんのスカートの陰に隠れてだけど、それなりの修羅場を潜ってきた自負があるわけよ。
これから自分が住む街の防御体制に興味があったから、色々詳しく訊いてみたのよ。
それが周囲の人、皆、答えられないんだよねえ。
そもそも聖山キュロスにアゼルフォード様がいるから大丈夫だ、とかって極論まであるけどさ。
そのアゼルフォード様が「我以上なり」って評価したカーラさんでも、消耗してるところを狙われたら格下に負けちゃうわけよ。
だいいちその魔王様、そうは見えなかったらしいけど、アゼルフォード様より強いわけでしょ。まあ、これはオフレコだから言わないけど。
で、そんな感じに話してたら、周囲の魔法使いらしき人がどんどん険悪になっていくわけよ。
しまいには、貴族の身分を振りかざした愚か者が! とか叫びだすの。
あ、おいらこれからお世話になる人の家に行くわけだから、ちゃんと正装していったのね。マネーシャの男爵の正装。
別に貴族の身分なんて振りかざしてないよ。ただ、格好はそう見えたかもしれないけど。
だいたい本物の貴族が、乗合馬車に乗るもんかね。
元々農民だし、前世だって中流家庭の出身だ。身分に対するこだわりなんて、あるはずもない。
でも向こうにはそう思われないのね。もう、罵詈雑言の嵐。こっちが子供だと思って、調子に乗ってるんじゃないかな。
いや、切れないよ?
おいらもあの戦争で、ずいぶんと成長したと思う。実力の裏付けのない恫喝なんて、ちっとも怖くない。
レベル20とか30なんて、雑魚ですよ、雑魚。
身体強化の魔法使えば、おいらでさえ素手で制圧可能ですよ。
しないけどね。こんなところで騒ぎを起こして、カーラさんの顔に泥を塗るわけにはいかないからさ。
でも、カーラさんの笑顔を思い出して耐えながら考えたよ。
姉ちゃんに紹介状書いてもらってたら、今頃平気で暴れられたんじゃないかなってさ。
ほら、あの人そういうの喜ぶから。
まあいつまでも収まらないんでどうしようかと困ってたところに、その馬車が通りかかったのさ。
「黙りなさい」
問答無用の拡声魔法ね。それで皆黙ったよ。
ああ、傷を負わさない無力化の魔法って、そういえばあんまり知らないや。
とにかく馬車の窓が開いて、中の人が顔を見せたわけよ。
驚いたね。
メガネっ子だったんだもん。
この世界、魔法があるからさ。目が悪いの、治せるのよ。そもそも目が悪くなる人自体が少ないし。
それなのにわざわざメガネしてるぐらいだから、鑑定してみたのね。
驚きのレベル70ですよ。しかも、ギフトに魔法の天稟まで持っていた。
年のころはおいらと同じぐらいで、髪の色は黒。まあ美少女と言っていいんだろうけど、ほら、すぐ近くに顔だけは絶世の美少女って人がいたからさ。
それにまだ、ちょっと幼いよ。おいらのストライクゾーンじゃないね。
あとさ、ちょっと大陸北西部の顔じゃないのよね。どちらかというと日本人っぽい。
「何事ですか」
と少女が尋ねてきたので、おいらは理路整然とこの街の防御力の不足を語ったわけよ。
「なるほど、理にかなっています。お父様に伝えておきます」
そう言ってお嬢様を載せた馬車は、居並ぶ列を無視して大門の方へ向かっていった。
後で聞いたことだけど、貴族にはそういう特権があるんだってさ。おいらも利用したらよかったよ。
魔法都市ジェミダンは、縦に長い都市だった。ビルディングみたいな建物が並んでいて、それは塔と呼ばれていた。
そこのメインストリートを進んでいくと、突き当りが魔法学園で、おいらが世話になる家はそのすぐ傍の大きなお屋敷だったのさ。
門前で取次ぎをお願いしたら、変な顔をされたよ。まあ、貴族の子供が一人でやってくるなんて、そうそうありえないことだろうからね。
それでもさすがはカーラ様の紹介状。執事さんが出てきて、丁重に出迎えてくれたよ。
「今、旦那様は仕事で出ておりますが、幸いお嬢様がいらっしゃいますので」
まあ、昼間から家にいるのも珍しいか。
応接室で待たされること数分。コンコンとドアをノックする音。
立ち上がって迎えると、あらびっくり、さっきの美少女がいたでないの。
向こうも驚いたみたいだけど、すぐに平然とした顔を作ったね。クーデレだよ、クーデレ。まだデレてないけど。
「はじめまして。当家の娘クリスティーナ・コトー・マルケンと申します」
「こちらこそはじめまして。サジタリウス・クリストール・クロウリーと申します」
え? なんでクロウリーかって?
男爵に任ぜられた時、改めて新しい爵位名を作ってもらったのさ。
「サジタリウス卿は貴族でいらっしゃるのですか?」
「はい。オーガス王国の男爵にあたります」
ああ、あの。とクリスティーナ嬢は言った。やはり今一番有名な国だしね。
「ジェミダンでは貴族の扱いは、少し特別なものとなっています」
ああ、それは少し聞いていたけど、改めて聞いてみるのもいいかもしれない。
まず、ジェミダンでは貴族と言えど、ほとんどの特権が通用しない。これは聞いてた。
せいぜいが門の通行を優先してもらえるとか、レストランの予約席が取りやすいとかその程度で、貴族特権で犯罪を犯しても軽くなったりはしないという。
「まあ、私は元々農民でしたから、それは大丈夫だと思いますよ」
この言葉に、お嬢様は随分と驚いたらしい。
「お父上が戦功を立てられたのですか?」
まあ、オーガスの成り立ちを考えると、そう思うのも無理はない。
「いえ、私が偶然女王陛下の旅の過程で仲間になりまして、戦争では補給部門を務めたので、それで評価されたのです」
「では、あなたご自身が爵位を持っていらっしゃると?」
ああ、驚いてる。驚いてる。
これぞまさに、おいらSUGEEEEEだね。
「平民が一代で…しかもその若さで…。やはり、魔法を使って? いえ、補給部門というからには、相当優秀だったのでしょうね」
いえ、魔法の力です。
まあそれを言うのもなんなので、貴族らしく微笑で誤魔化しましたとも。
マルケン伯爵は娘と同じ、東洋系の顔立ちをしていた。これは今まで知らなかったけど、東方の都市国家群がこういう顔立ちは多いらしい。
家族構成は男女一人ずつで、クリスティーナ嬢は妹にあたるらしい。長男のほうは亡くなった母親の血を濃く引いたのか、南欧っぽい顔立ちをしている。
んで、この人、あんまり感じよくない。
妹の容姿があんまり良くないから仲良くしてくれとか、成り上がりだが一代でその年齢としてはたいしたもんだとか。
「クリスティーナ嬢はこの辺りでは珍しい顔立ちですが、都市国家群に行けば、相当の美人ですよ」
とまあいらんリップサービスしたら、父親の伯爵様大喜び。やっぱり自分に似ているのが美人と言われると嬉しいよね。
後から執事さんに聞いたんだけど、この兄君、クリスティーナ嬢に比べてオツムの出来は相当悪いらしくて、それがコンプレックスなんだとか。
そんなん言われても知らんがな。おかげでちょっと兄の方とは上手く行きそうにない。
クリスティーナ嬢もせっかく誉められたのに、あまり反応を見せなかった。けれど執事さん曰く、あれは照れているのだとか。
まあ、難しい年頃だよね。
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