希望と絶望は隣り合わせで!
23-8で勝っている2-Cの8名。
1セット目とは打って変わり、圧倒的な力を見せる俺たちのクラスは確かに体育館を熱狂の渦に巻き込んでいた。
正直に言って、スタメンの6名全員が倒れでもしない限り、このセットを落とすなんていうことはないだろう。
そんな圧倒的に有利な状況からサーブを打つのは幸運なことに高松。
県内でもトップを争う学校のスーパーエースとも呼ばれるポジションであるオポジットをする実力は確かなようで、高松はここまでのサーブやスパイクで弱かった試しがない。
それはどんなに早い速攻で、合わせるのが極端に難しいとしてもだ。
これを言うのは本当に悔しいが、俺でも大川の無茶振りともいえる速攻を打つのは難しい。仮に打てたとしても、その威力が渡辺先輩と虎町先輩という強大なレシーバーを2人も擁するチームに対して十分かと聞かれたら、「十分なわけがない」と答えざるを得ない。
これは、大川と高松が長い時間をかけて作ってきた連携で、絆や友情の証でもあるのだろうから、当たり前だと言えばそうだが、悔しいものであることに変わりはない、と何度も言っておこう。
そんな大川との連携、強力な攻撃はもちろん、ムードメーカーとしてもこのチームを引っ張ってきた高松だが、今はこれまでとは打って変わり険しい顔をしている。
その理由は大方想像がつく。
それは『サーブで誰を狙うのか』ということだろう。
俺たちの現在のローテーションは俺が前衛の一番ライトにいて、高松がサーバー。
対する相手のローテーションは後衛に渡辺先輩と虎町先輩。渡辺先輩の対角線上には雀宮先輩が待ち構えている。
普通のチーム相手だったら、雀宮先輩レベルのスパイカーが居たら、その前にボールに触れる。つまりセッターを狙うのがが、このチーム相手だとそうはいかない。
何しろ渡辺先輩はセッターでありながら、レシーブの技術は県内でも1、2位を争うレベルだからだ。そして虎町先輩も圧倒的なレシーブの技術を誇っており、そのレベルは県内でも1,2位を争うレベルらしい。
つまり、相手には県内トップ1と2がいるということになる。
虎町先輩もレシーブという簡単そうに見えて、繊細な技術を磨いてきただけあってトスの技術もかなりのレベルで有している。
それは高松がコートのどこを狙おうが、結局は雀宮先輩のスパイクにまでつながってしまうということ。
そんな立場に立たされている高松の気持ちは痛いほどに分かる。
それは2年前にも俺が経験したことがあったからだ。それは俺が3年だった時の全中の決勝でのこと。
「……やべぇ。あのローテーションでどこを狙えばいいんだよ……」
「僕がサーブじゃなくて良かったな~」
「お前な、他人事だからって……」
俺に楽観的、というよりも自分とは無関係のことだと割り切って、俺にそっけない対応をしてくるのはチームメイトでも1番の長身を誇る卜部。
俺がどうしてここまで悩んでいるのかと言うと、相手のチームである駿南のローテーションに原因はある。
駿南とは2年連続で決勝の場で戦うことになったが、基本的な戦術は変わりないらしい。
みんなで拾って、繋いで、みんなのエースに託す。別に特段と難しいことをしているわけではない。
だけれども、その動きは全てが洗練されていて、速攻なのではないかと疑ってしまうほどだ。正直に言ってやりにくい。
去年もそうだったがセッターが本当にレシーブが上手い。去年セッターだった渡辺とかいう人もリベロとしても活躍できるのではないかというほどに上手かった。
それは今年も変わらないようで、駿南のセッター、鷹屋はボールの扱いが本当に上手い。それにはセッターとしての技術はもちろん、レシーブも対戦相手である俺でさえも感嘆するほどに上手い。
「よし、決めた」
そんな駿南相手に俺がどうやってサーブを打つのか。ついに決心した俺はボールを持ち、コートの端へと向かう。
得点板には24-23と書かれている。ここで俺がサービスエースなんかを決めることができたら、この2セット目は取ることができるのであろうが…… 正直に言ってサービスエースは難しい。
可能性があるとすれば…… ネットインだ。
本当なら狙うようなプレーではないけれでも…… これに賭けるしか1セット目を取られているこの状況でチャンスを掴むことはできない。
そしてホイッスルの音が鳴った。
俺は迷わずサーブトスを上げた。それはいつも通りに投げれたのでひとまずは安心できた。
俺は少しの助走からジャンプをするといつもより少しだけ威力を抑えた。もちろん手を抜いたわけではない。
その分をコントロールの精度に注ぐということだ。
狙うのはできる限りネットすれすれ。高く打ってしまえば確実にコートから逸れてしまう。
だけどそれは跳躍しきっている今の状況では関係がない。
いつもより少し低めに跳んだ俺はそのままボールを打った。
そしてボールは弾丸のようにまっすぐ飛んでいく。
そのままボールは運命ともいえるネットの近くを通る。
ボールは狙い通りネットに当たった。
まっすぐにボールを飛ばしていたエネルギーは一瞬で上方向へと変換された。
ネットインすると気が付いた駿南は対応しようと前衛の選手が近づいた。
ボールは上方向へのエネルギーを使い切り、下降し始める。
そして再びネットの上へと当たる。ネット上でバウンドしたボールは……俺たちのコートへと向かってきた。
味方のサーブには触れることができないため、俺たちは泣く泣く点を諦めなければいけない。
そしてコートの床にボールが当たった。
もちろん点は駿南に入った。
「……点を取るどころか取られてしまったね。監督がタイムアウトを取るらしいけど、僕は知らないからね」
卜部は俺を憐れみながらそう言った。
ベンチを見てみると確かに監督が審判にタイムアウトを要求していた。
そしてブザーが鳴り、俺たち櫻島学園のタイムアウトとなった。
そんなことが2年前に俺は起こしてしまった。
だけど、それは決まれば相手の意表を突くことができるというのも確か。
ここで高松がどんな行動を取るのか。それは今高松の中で決まったのであろう。
一瞬で強張っていた顔を綻ばせると高松はいつも通りサーブトスを上げた。
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