第6話 セックスレス
あたしがセックスをしなくなったのはいつからだろう。正しくはセックスを鬱陶しい儀式と思う様になったのはいつからだろう。
歳も歳だけど、それなりには経験は積んでいる。
若い頃は人並みに興味はあった。
オンナの皮膚感覚とは異なる、逞しいカラダに我が身を委ねるためらいとドキドキ。
そして吹っ切れる瞬間の心の音を楽しんだ時代もあった。
見られている。
見つめている。
それはそれで楽しかった。
だけど、セックスという行いに嫌気がさして来たのも事実で、ついには裸になる理由すらも分からなくなった時もあった。
セックスイコール愛し合った互いの確認儀式。
けれど、所謂「感じている演技」をしながら、相手の要求に応じてしまっている自分もいる。
オトコは興奮しつつも、あたしを感じさせようと必死になっているけど、あたしのイタミは理解してはくれない。
身体の痛みと心の痛み。
結婚を決めたのは勢いと盲目な現状にあったと今更に思う。
そしてもうひとつは、セックスの相性が良かったのも事実だ。
付き合い当初は頻繁に愛し合っていた。
シャワーも浴びずに互いを求め合った。
それくらい盲目だったのだろうか。
だけど、結婚してからは次第に激情は薄れていった。夫は仕事人間。あたしは専業主婦なりに懸命に家事をこなす毎日。
ひとつのベッドでふたりで眠る夜も、時の流れと共に異質な日常へと変化していく。
もともとあたしはキスが好きなのだ。
心を捧げた相手の顔がゆっくりと近付いてくる。
首筋に優しく触れる温かな手の感触。
互いの鼻頭がコツンと触れる冷たい感覚。
オトコの唇も案外やわらかくて、互い吐息を間近で感じ合える時間がいちばん居心地がいい。
教授と出会ったあの日のドキドキを考えながら、土曜日の夜はひとりでぐっすりと眠った。
朝を迎えると、SNSに教授からのメッセージが入っていた。
『今日会えませんか?』
あたしは迷わなかった。
『夕方からで良ければ』
と返信すると、すぐさま既読がついた。
教授に心を捧げられるかどうか、あたし自身を試してみたくなった。
夫は明日帰って来る。
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