第4話 水曜日のベット
底冷えの水曜日。
いつもの様に仕事へ向かう夫を見送った後、あたしは郊外のショッピングモールへと車を走らせていた。曇天の空の下、車の排気ガスの臭いが鼻につく。
それを感じると、もう師走なんだと痛感する。
昔からそうだった。
澄んだ空気の中の異質なモノが季節感を与えてくれる。
これで小雪でもチラついてくれたらもっと素敵なのにとあたしは思う。
ショッピングモールの駐車場に車を停めてしばらく歩くと、ハクセキレイが長い尾っぽをヒョコヒョコ動かしながらあたしの前を通り過ぎて行った。
ものすごいスピードで、ちょこまかと歩く姿はなんともコミカルで、あたしはついつい微笑みながらその動きを観察する。
最近は街中の小鳥や草花に関心が無くなってしまっていた。
何かと生活に追われていたのだ。
自分の感情だって、素直に出せなくなっていた。
心の重しは、ひとりだけのドライブで軽くなって、お気に入りのカフェでSNSで時間を潰しながら気を紛らわす。そんな毎日もまんざらではなかったけれど、何処か無性に淋しかった。
子供がいないから?
違う。
子供が出来ないから?
それも違う。
とにかく実感がないのだ。
家庭や夫婦の実感がまるでないのだと、今だから思えてしまう。
寝具のコーナーに立ち寄って、手頃な価格のシングルベッドを眺めながらあたしは尚更気が滅入ってしまった。
自分用のベットを買おうとしている心の変化が虚しかった。
夫を別に嫌いになった訳ではない。
ただ、肌が触れ合う感覚が異質に思えてしまったのだ。
それは、澄んだ空気の中の排気ガスの臭いと同じくらいに、不確実なあたしの感性だけの問題なのだろう。
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