第26話 二国統一

 フォーシュナイツに戻る途中、サビとセリをピックアップする。

 二人は持っていたデバフ焼き鳥を全部売りさばき、それから何も食べていない元気な兵士さんたち相手に戦っていたらしい。

 ところどころに小さな傷はあるものの、さほどダメージは負っていないようだった。


 平衡感覚を失っている兵士さんたちや、集団で爆睡している兵士さんたち、剣も鎧も重すぎて身に付けていられなくなった兵士さんたちが、森のいたるところにいた。

 うふふ、デバフ焼き鳥、なかなかの代物じゃないか。

 ただまぁ、焼き鳥にマイナスイメージが定着してしまうのは避けたいし、必要にならない限りはもう作らないかなぁ。

 バフ焼き鳥だけで十分だよね。


 フォーシュナイツ城に戻ると、王様が両目を見開いて驚いていた。

 普通、こんなに早く戻ってこないそうだ。

 しかも敵国の王様を、なんでも言うことを聞く状態にした上で戻ってくるなんてありえないそうで。


 最短記録更新ktkrキタコレ



「本当にお主らが敵にならずに済んで良かったと思うぞ……して、褒美はどうする。なんでも言うが良い」



 い、今、なんでもするって言いましたよね!?


 私は嬉々として要望を告げた。

 当初の目的、ドーファラスの絶滅回避。

 それから連れてきた元日本人のキリクさんとロレーヌさんを紹介し、彼らに家と、食材を提供してほしいこと。

 それからトリキの開店準備が整ったら、お店を用意してほしいこと。


 全てを了承してもらえた私は、大満足である。

 しかも、王様が焼き鳥食べたいからってプリオ亜種の飼育も続けてくれるというのだ。

 素晴らしい。



「あ、これでリオン様と結婚するメリットがなくなりましたね」


「ちょっと! そんなにさらりと切り捨てないでくれよ!」


「うーん、でもなぁ」


「ぼ、僕、これでも魔術師なんだ。それなりに強いはずなんだけど、どう? 旅の仲間にしたくならない?」


「えっ、魔術師なんですか?」


「そう。エラリオール、僕、結構強いよね?」



 突然声を掛けられたエラリオールさんは、一瞬構えたけど、すぐに微笑んで頷いた。



「えぇ、リオン様が宮廷魔導師になっていたとしたら、私の右腕にはなっているでしょうね」


「ほら! いいでしょ?」



 私は少し考える。

 確かに、お得だ。

 顔はもちろんいいから、店員としてもマル。

 焼き鳥が気に入っていたみたいだし、お願いすれば焼きの作業も手伝ってくれるだろう。

 そして今さっき、私は魔術の勉強がしたいなと思ったところだった。


 よし、もらおう。


 一応みんなの方もちらりとうかがうけど、誰も何も言わない。

 サビがジト目で見てくるくらい。


 いいじゃん!

 こんなに一緒に来たいって本人が言うんだから!



「決めました。リオン様、私、あなたを仲間に加えます!」


「やった! では父上、母上、行ってまいります。兄上たち、仲良く統治してくださいね。妹よ、手紙は送るぞ」



 軽ぅ。

 一国の王子がそんなんでいいんか?

 まぁ、めんどくささを感じた時点で置いていかれるって分かってるんだろうな。

 別に、私としては一緒に行こうが行くまいが、どっちでもいいしね。


 私は元日本人の二人の元に向かった。

 リオン様よりこっちの方が大事なのよ。



「キリクさん、ロレーヌさん、お願いがあります」


「ひゃい!」

「ふぁい!」



 二人はキャトラス国王と私を交互に見ては震えている。

 こ、恐くないよ!?

 何もしませんと主張するために、両手を挙げて話し掛ける。



「トリキはご存知ですよね? 焼き鳥も」


「は、はい!」


「知ってます!」


「私、この世界にトリキをオープンするつもりなんです。で、今これだけ食材やらタレやら見付けたんですけどまだまだで、しかも今までは単品で食べてたのにこの間、複数のものを混ぜ合わせると味が変わるって話を聞いてしまって。もう、全然追い付かないんです! だから、王様がくれたお家で、王様がくれた食材を、食べたり組み合わせて、日本の食材の味を見付けてください。こんにゃくの食感とかも、欲しいです。なんでもいいので、見付けたら教えてください、これ、連絡用の水晶です!」



 私の前のめりな説明に目を回した二人は、ぶんぶんと首を縦に振って了承してくれた。

 無理に頷かせたみたいだけど、そんなことないよね?


 本当に私だけじゃ無理だから、手伝ってくれる人が増えるのはめっちゃ嬉しい。

 ああ〜これでペースアップしてほしいな〜〜!





 フォーシュナイツ国とキャトラス国。

 元は一つだった国が二つに分かれ、今ここに、再び統一された。


 その事実はおとぎ話めいた歴史とともに人々の間へ広まり、新生フォーシュナイツ建国記念祭が大々的にもよおされることとなった。


 フォーシュナイツ王都で行われたその祭りでは、珍しい料理が振る舞われたという。

 二国統一のために勃発した戦争を、まるで風の女神の祝福のように鮮やかに軽やかに集結させた立役者。

 トリキの錬金術師こと、フローリア。

 彼女の愛する“焼き鳥”は、フォーシュナイツの兵士を奮い立たせ、勝利に導く料理であったとされる。


 貴族も平民も、身分を問わずかぶりつく小さな肉の連なりは、濃厚な風味と香ばしさで皆の食欲を満たした。


 暴君であるとされていた元キャトラス国王も、その”焼き鳥“を好むという。

 戦争の集結とともにフォーシュナイツへ来た元キャトラス国王は、まるで過去を全て捨ててきたような具合であった。

 フォーシュナイツ国王に恭順を示す彼は、別人のようだった。

 彼は“焼き鳥”の素晴らしさを声高に叫び、幸せそうに”焼き鳥” を頬張る。

 その瞳には、フォーシュナイツの未来が映っているのだろう。



 “焼き鳥”は唯一にあらず。



 そう言い残したフローリアは、いずれこの国に“トリキ”を建てると高らかに宣言した。

 彼女の目指す”トリキ”に至るには、何種類もの”焼き鳥” 、その他たくさんの料理が必要なのだという。

 特別な料理を手がける料理人も必要だと彼女は語った。


 未だ得られぬ数々の食材を求め、彼女は旅立つ。

 その傍らには、幸せそうに彼女を見守る第三王子の姿があった。


 フォーシュナイツに“トリキ”が建つ日の訪れを、心から願う。





 フォーシュナイツ国王最高ー!

 二国統一のお祝いのお祭りで、国民に焼き鳥を振舞うことを許してくれたのだ。

 お城の料理人さんたちも、兵士さんたちも、リュシューやおかみさんたちも焼くのを手伝ってくれて、みんなで焼き鳥を食べた。

 途中から、プリオ亜種の肉が足りなくなって、チーコックのなんちゃって焼き鳥になってしまったことだけが悔やまれる……!


 おじいちゃんはまた森のお家に帰って行った。

 水晶を渡そうかと思ったけど、改造してから送りつけることにした。

 なんか、ロルちゃん並に鬼電が掛かってくる予感がしたから。


 サリーユさんは、ホックに刺激されてまた修行を重ねることにしたらしい。

 マジでホックは何者なの?

 免許皆伝みたいなこと言われてたけど、本気?

 ま、まぁ、強い分にはオールオッケー!……だよね?


 リオン様はマジでついてきた。

 王都を出るときに、婚約者候補だったらしき女の人が駆け寄ってきたけど、なんかめっちゃいい笑顔でさよならしてた。

 女の人、号泣。

 いいのかなぁ……。



 兎にも角にも、旅の再開!

 カルビの絶滅は防げたし、万々歳だね。


 次は何が見付かるかなぁ〜。



 私たちの旅は、まだまだ、続く。




【To be continued......】





-{}@{}@{}-【次章予告】-{}@{}@{}-

仲間や協力者を増やしたフローリアは、どんどん進む!

ずいずい進む!

ささみ、もも肉に続いて見付けたのは、ぼんじり!

その途中でなんだか物々しい鎧に身を包んだ集団に囲まれる!

いきなり剣を突きつけられるフローリア!


「お前、賢者の石を持っているな」


何がどうなってこうなった!?



“第2章 ぼんじりと賢者の石“

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