第19話 ミステイク、かーらーのー

 その日はリュシューに教えてもらったオススメの宿に泊まることにした。

 ここにも恰幅のいいおかみさんがいて、笑顔で案内される。

 この国の女の人はダイナマイトボディな人が多いのかな?


 宿泊には朝ご飯が付いてて、この人数ならみんなそれぞれ個室を取れると言われる。

 そんなに高くなかったし、私が全員分の代金をカバンから出すと、おかみさんが驚いていた。

 えっへん。

 部屋はそんなに広くはないけど綺麗だし、ベッドがあってふかふかだ。

 野宿とは訳が違うね!

 久しぶりのふかふかベッドに、私はちょっと寝坊するくらい爆睡した。


 次の日の朝、食堂でパンやらソーセージやらを食べる。

 バイキングってわけではなく、一人一人に皿が出された。

 ナッツみたいなのが練りこんであるパンもあって美味しい。

 パンってどうやって作ってるんだろうな〜。

 でも普通にパン屋さんはあるみたいだし、あんまり気にしなくていいか。


 私はさっそく、門前払いを食らうだろうことは覚悟の上で、王城に行ってみることにした。

 朝ご飯を食べた後に、みんなに自由行動で!と言ったのだけど、結局全員私についてくる。


 フォーシュナイツでは一般市民立ち入り禁止区域とかはないみたいで、城の前まで来ることが出来た。

 キャトラスのお城と基本の造りは同じなのだけど、ところどころの意匠が違っているみたい。

 やっぱり兄弟国なのかなぁ?


 さすがに門は閉ざされていて、鎧を身に付けたガタイのいい兵士さんが数人、その前に立っている。

 私は一人の兵士さんの元へ駆け寄り、声をかけた。

 私よりだいぶ背の高い人で、私を見て少し屈んでくれる。優しい。



「どうした、お嬢ちゃん」


「あの、王様への謁見とかって、庶民にも出来るものなんですか?」


「お? なんだ、王様に会いたいのか? 年に一回、建国記念日には身分に関係なく王様に謁見出来るんだが、毎年希望者が殺到してなぁ。名前の書かれた棒で抽選をするんだが、相当な倍率だ」


「あー、なるほど。やっぱりある程度の身分がないと難しいのですね。ありがとうございます」



 私は丁寧にお辞儀をして、お城を後にした。

 まぁ、そうだよね。

 王様がホイホイ一般市民と会ってたら時間がいくらあっても足りないよ。


 早々に正規ルートでの謁見を諦めた私は、とりあえずギルドに行ってみることにした。

 すぐにいいアイデアは浮かびそうにないし。

 こっちの国では珍しくて価値のある素材を持っているかもしれないしね。


 フォーシュナイツでも、冒険者ギルドと術師ギルドは同じ建物内にあった。

 私とコーリリアは、他のみんなと別れて術師ギルドの受付に向かう。


 受付横の掲示板をなんとなく眺めていたら、いくつか私の持っている薬草が高値で探されていた。

 取れる場所は知ってるし、さほど貴重な物でもないから少し売ってあげよう。

 受付のお姉さんにその旨を伝え、薬草とギルドの所属証を差し出す。

 にこやかにそれを受け取ったお姉さんの顔が、私の所属証を見た瞬間に真っ青になった。

 えっ、私なんかやらかした……!?



「あ、ああああの……フフフフローリア様は、フィ、フィヴィリュハサードゥ様のお弟子さまでいらっしゃいますか?」


「はい、そうですけど」


「フィヴィリュハサードゥ様ご本人は、いいいいいらっしゃらない、で、すよね!?」


「はい、フィブッ……師匠は一緒に旅してないので」



 あ、でも呼んだから来るかもしれないな。

 とりあえず今いるわけじゃないからいいか。



「そ、それは良かった……あ、あの! 今後も、いらっしゃる予定はありませんよね?」


「え?」


「え」


「あります、けど」


「きゃあああああああああああああああああ!!!!!!!!! ギ、ギ、ギ、ギルド長ううううううううう!!!!!!!!!」


「えっ、ちょ、お姉さん落ち着いて!?!?!?!?」



 号泣しながら私の所属証を引っ掴み、ギルド長を呼びに奥へ行ってしまったお姉さん。

 そして私は思い出す。

 トリスの錬金術師さんが、おじいちゃんは死んだことにするか、今いる場所は分からないことにしておけと言っていたことを。

 もしかして、この国でもおじいちゃんはヤバいことやらかしていたのだろうか……ミスった……。

 私は周囲の注目を一身に浴びながら、いたたまれない気持ちで薬草をカバンにそっとしまった。


 何事かとみんながこっちに合流したのと、ギルド長だというずんぐりむっくりなおじいさんが出てきたのはほとんど同じタイミングだった。

 私の所属証をどんよりした顔で見ていたおじいさんは、ローグスさんの顔を見てさらにどんよりした。


 それからおじいさんに案内されて、私たちは少し奥まったところにある広めの個室に入った。

 品のいい調度品に囲まれて、厚手の生地のソファに促される。

 他のみんなは私の周りに立っていることにしたみたいで、私だけがソファに腰掛けた。

 偉そう……。



「あー、フローリア殿、で間違いないかな?」


「はい、そうです」


「わしはこの王都に於ける、術師ギルドの長を務めておるキッキリーじゃ。単刀直入に聞くが、フィヴィリュハサードゥ殿がこの国に来ることを止めることは可能かの?」


「はい。とても私的な用事で呼び付けた……というか、来れるものなら来てみてよーくらいの感じで手紙を出しただけなので大丈夫ですけど、その、おじいちゃ、うちの師匠が来るとなにが問題なのでしょう……?」


「戦争が起きる」


「は!?」



 え、おじいちゃん何やらかしてんの!?

 戦争!?



「あー、彼自身がなにかしたというわけではないんじゃ。彼が最後に所属していた国が問題、というだけじゃから……」



 私はとりあえずおじいちゃんに手紙を出すことにする。

 長々書いてる場合じゃないから、『フォーシュナイツには来るな。はやく帰れ』とだけ書いて飛ばした。

 少し顔色のよくなったキッキリーさんに話を続けてもらう。


 なんでも、キャトラス国王は死ぬほどワガママで強欲で、一度でも自分のものになったら最後、絶対に手放さないことで有名なのだそうだ。

 ただ、おじいちゃんがキャトラス国の国家錬金術師として研究をしていたのは、先代の王様の頃の話らしい。

 代替わりの時、おじいちゃんは国家錬金術師としての何もかもを国に返還して、フリーの錬金術師になったそうなんだけど、今のキャトラス国王はそれを許さなかったんだそうな。


 王が認めてないんだから申し出は無効!

 さっさとキャトラス国へ戻ってこい!


 っていうのが現国王の言い分で、指名手配並みの御触れが国中に出回ったみたいなんだけど、その時にはすでにおじいちゃんは森の奥に結界を張って雲隠れしていた後だった。

 王様はカンカンで、隣接する国々に対しても声明を出した。

 それも、ほとんど宣戦布告に近いものを。

 端的に言うと、『お前の国にフィヴィリュハサードゥを匿ってやがったら絶対許さん。そうなったらお前の国ごと俺のものにしてやるから覚悟しとけよ』とのこと。


 マジかよ。

 キャトラス国王、クレイジーすぎるだろう。

 え、そんなにおじいちゃんって凄いの?

 おじいちゃんが失敗する姿ばっかり記憶に残ってるから、全然凄い人に思えないんだけど、でも周りの人たちの話を聞くと、とんでもなく凄い人なんだよなぁ。

 それにしても、おじいちゃん(の錬金術)がほしいからってイケイケドンドンしちゃう王様がホントにヤバい。


 おじいちゃんが来ちゃってたらどうなってたやら……っていうか、ロルちゃんたちが隠してくれてなかったら私もヤバかったんじゃないのか!?

 おそるおそるローグスさんの顔を伺うと、黙って頷かれた。

 マジかよ。


 あぁーーーーこんなことだったらおじいちゃんに錬金術教わるんじゃなかったーーーー!!!!

 私は焼き鳥が作れたらそれでいいんだよーーーー!!!!

 たかがカルビのためにこんな苦労をすることになるなんて……って、そうだ。



「あ、あの、師匠のことで話があるって言ったらフォーシュナイツ国王様に謁見出来ますか?」


「む、それは勿論、出来るじゃろうな。なにせ国の一大事じゃ」


「やったー! 会わせて下さい!」


「そんな簡単に言うんじゃない! というかフィヴィリュハサードゥ殿のどんな話があると言うんじゃ」


「うっ……それは……」


「ワシがどうかしたか?」


「あぁ、今おじいちゃんの話題でもちきり……って、わぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!! なんで来てんのーーーーー!???!!???!?」


「なんでって、お主が呼んだんじゃろうが! して、タレはどこじゃ? もも肉のタレは?」


「手紙は!? 私、こないでって言ったよね!?」


「ん? あぁ、お主、魔法陣の記述間違えたじゃろ。ボロボロの手紙が届いたぞ。いくら早くわしに会いたいからって不完全な魔法陣を描くのは感心せんな」


「あ? ああああああ……ホントだ……」



 一箇所、インクが掠れて文字が別の文字として認識されるようになっている部分があった。

 そのおかげで私の送った手紙は『フォーシュナイツに●●●●。はやく●●』と、クソみたいな残り方をして焼け焦げていたのである。


 まずい、このままでは戦争が。

 あれ?

 でも待てよ。

 プリオ亜種の牧場って、実はキャトラス国の領土にあるんだよな?

 もしキャトラス国王にバレたら、取り上げられる?

 それならいっそフォーシュナイツに戦争に勝って二国統一してもらったら、平和に育てられるんじゃない?



「フローリアー、タレはー」


「うるさい!」



 私はしょげるおじいちゃんを放置し、フォーシュナイツ国王へ戦争をオススメすることを決意した。



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