第92話 明日も晴れるようで③
アイネ宅での確認あれこれを終わらせたら、今度はアイネと二人で教会へと向かう。
そこまで遠くないし、時間にも余裕があるからのんびり徒歩だ。
アイネは今は、外を出歩く時も眼鏡を掛けていない。なので表情がとてもよくわかる。
あの分厚い眼鏡姿も可愛かったけれど、そこそこ不便もあっただろうし。うん、でもたまには眼鏡姿もまた見たいものだなあ。
どうして眼鏡を外すようになったかというと、きっかけはリディちゃんだ。
というのも、目が透明なままでは目立つということに気付いたそうだ。妖精の女王の感覚ってよくわからない。
まさか透明な目でアイネが苦労しているとは思っていなかったリディちゃんはそれはもう慌てた。
それでアイネの近親者以外には、アイネの本来の目の色であるブルーグレーに見えるようにしてくれたらしい。
僕は前倒しで近親者に含まれるみたいで、相変わらずの神秘的な透明な目の色に見えるままだけど、街を出歩いても騒ぎにならなかったから他の人にはちゃんとブルーグレーに見えているのだろう。
もっとも、アイネが眼鏡を外してしばらくは、やばい美人がいると別の意味で話題になったけど、それはそれだ。
僕とそのうち結婚することは知り合いはみんな知っていたから、変に声を掛けられることはなかったから良かったけれど。でもマルシェとかで他所から人が来た時とかは特にとても心配なので、出掛ける前に以前プレゼントした結界魔法が入った魔石のペンダントをちゃんとつけているか確認している。
見た目と違ってアイネは腕っぷしがパパさん仕込みで中々強いらしいけど、心配なものは心配だ。
何より当の本人が、自分は美人だという自覚がないというのが大きな理由かもしれない。
でもそんなところがまた可愛いんだよなあ。
教会へと向かって二人で歩いていると、色んな人に声を掛けられる。
結婚式が明日だということを知っているから、お祝いの言葉をくれた。
「二人とも!」
「あ、ステラおばさん。こんにちは」
「こんにちは」
「明日の為にとびきりのお肉準備しといたからね!おめでとう」
ステラおばさんはお肉屋さんなので、明日の結婚式後の食事会分のお肉全般を依頼していた。既に会場となるお店には届けてきてくれたらしい。
「ありがとうございます」
「お肉、楽しみです」
僕もアイネもこのお肉屋さんの虜だ。いつもお世話になっている。
ステラおばさんの物怖じしない感じとか、快活な笑顔とか、そういった部分も好きな理由の一つだ。
「今日は忙しいんだろ?コロッケ、食べる時間はあるかい?」
昼食は教会へと行った後、食べるつもりでいた。小腹が空いているかといえば、朝が早かったから勿論空いている。
アイネを見るとどうやら同じみたいで、僕たちは小休止、買い食いを決行することにした。
「食べます。二つお願いします」
僕がそう言うと、ステラおばさんはにっこりと満足そうに笑った。と、奥から旦那さんがやってきて二人分のコロッケを出してくれた。早い。
「お代はいらん」
「えっ」
寡黙な旦那さんが喋った!
いや、そうではなく。
「サービスだって!遠慮せず食べなよ」
良いのだろうか。今回食事会の為に頼んだお肉だってすごくサービスしてくれたのに。
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「またご贔屓に!」
僕とアイネは二人でお礼を言って、お肉屋さんを後にした。
これからもお肉はステラおばさんのところで買おうと思った。なるべくいっぱい。
「イヅル……」
「どうしたの?」
「このコロッケ、普通のコロッケじゃない」
なんと。そんなことが。
歩きながらぱくりと食べてみると、いつものコロッケの味とは違った。いつものコロッケもとても美味しいけど、これは更に……何というか、滲み出る利益度外視感が。
「多分、めっちゃ良いお肉使った、牛肉コロッケ……」
なおアイネは料理スキルが良いだけではなく食べる方でも知識が深く舌が肥えているので、アイネがそう呟いたのならそれが真実なのだろう。
あとこれ普通にめっちゃ美味しいから、今度はちゃんと料金をしっかり払って作ってもらおう。
教会では明日の時間や段取りをもう一度確認して、あとは魔法契約書の内容に不備がないかの最終確認だ。明日、サインするだけの状態にしておく。
その後、食事会の会場である喫茶店へ。
今日と明日の二日間貸切にしてもらっているこのお店は、アイネがよく通っているお店だ。そのつてで今回食事会の色々をお願いしている。
以前、柚さんとまどかさんと待ち合わせてケーキを食べた場所だ。
自分たちの手料理を出来れば振る舞いたい、という僕とアイネの意向を汲んでくれて、当日仕上げた方が良いパンやメインディッシュのお肉、ケーキなどそういったもの以外は、今日のうちに作らせてもらえることになった。
明日作る一部の食材以外は既に届いているから、早速二人で料理をする。
お祝いに来てこの料理を食べてくれる人たちが、少しでも美味しいと笑ってくれたら嬉しい。
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