第83話 ないしょばなし②

 怒らせてしまったキューちゃんにお詫びの品としてアップルパイ味のポーションを献上したところ、すぐにご機嫌になった。

 単純すぎてちょっと心配になるよ。素直なところは美徳だけど。

「そういえばイヅ兄、聞いた?」

「うん?何を?」

「昨日、勇者さん一行が魔王様を倒したみたい」

「え、……そうなの?」

「うん。国からの正式発表はまだだから確認中なのかもだけど。なんかね、噂によると魔王様を倒した後、勇者さんたちは消えたらしいよ。近くの街に報告に行って、その後」

 キューちゃん、詳しいな。学校にも通っているし、色んな人と仲が良いみたいだから情報が入るのかな。

 魔王様を倒すという役目を終えたから消えた……あちらの、元の世界へ戻ったということだろうか。

 キューちゃんの言うとおりまだ発表がないということは、各国が確かめている最中なのだろうと思う。

「行商のおじさんが、勇者さんたちがいっぱい魔物を倒してくれて助かったって言ってた」

「そっか。……そうなんだね」

 あまり積極的に勇者たちの話を聞こうとはしなかった。今でもやっぱりあまり関わりたくないと思っている。

 魔王様を倒すという目的で旅をしながら、魔物を倒して、人を助けていったのか。

 それは、良かったと思う。

 僕は魔物と戦ったことは、遠距離の弓でほんの少しだけだったけど、出来れば避けたいと思った。怖いし、血も出るし。

 その感覚は同じ平和な国に住んでいたのだから、みんな変わらないと思う。ゲーム感覚でやるには、生物の死はリアルすぎる。

 それでも人に感謝されるくらいだから、きっと努力して少なくない数の魔物を倒して、この世界の人たちを助けてくれたんだろう。

 僕がここで少し変われたように、みんなも、幼なじみも、何か変わったのかもしれない。




 アイネにはまた後日会いに来ることにして、買い物を済ませて帰ることにする。

 ノヴァ様と一緒に住むようになってから結構経つけど、食材の消費がとても激しい。ノヴァ様はよく食べるけど、精霊さんもよく食べるからね。

 でもどんなに大量で重い荷物でも、収納バッグ一つあれば軽々持ち運びが出来るから、本当に楽だと思う。

 とりあえず収納バッグに入れておけば失くさないし、腐らないし、ものすごく便利だ。中に何がどのくらい入っているかいちいち覚えていなくても、少し集中すれば頭の中に浮かんでくる。

 だいぶ前に突っ込んで、放置したままのものもある。そのうちに整頓しないといけないかな、とは思う。

 そういえばノヴァ様にもらった魔石で、使わずにそのままにしていたものがあった。二つもらって、一つはアイネを守る結界の魔法を入れたけど、もう一つは手付かずだった。

 買い物を終えて街を出て、僕の家へと向かう道には人気はない。気になったし、確かめてみようかな。

 収納バッグに手を入れて、『精霊王の魔石』を取り出す。あれ、何色だったかな。

 魔石を掴んで収納バッグから取り出す。

 ……あれ?こんなに大きかったっけ……?

 取り出した精霊王の魔石を見てみると、やっぱり大きい。

「色……そうだ、白じゃなかったかな」

 小ぶりで、白色だった気がする。

 けれど今取り出した魔石は、とても小ぶりとは言えない。

 ずっしりとした重みが手にはあり、それに色も白ではない。深い青色をしていて、ところどころキラキラと金色のようなものが見える不思議な石。見覚えのない魔石だった。

「……鑑定してみよう」




精霊王の魔石




 書いてあるのは、これだけだった。

 けれどこれでノヴァ様の魔石であることははっきりした。

「…………。……あっ」

 そういえばだいぶ前、ノヴァ様とはじめて買い物に出掛けた時に魔石をもらった。

 よく見ないで収納バッグに入れたような気がする。もしかして、いやもしかしなくても、それがこれか。

 どうして今まで忘れていたんだろう。興味がなかったから?いや、でも一回思い出したけど放置したんだっけか。

 小さな魔石の時ですら、僕はもらう時には躊躇した。それよりもこんなに大きな魔石をどうして、何も考えず受け取ってすぐに放置したんだろう。

「大きい魔石……。……この色、まるで地球みたいに神秘的な感じだ」

 気にならないように意図的にされていた、なんて、まさかそんなことはないかな。


『ねえ、イヅル。やっぱり、鍵は精霊王様だと思うの』


 アイネはそう言っていた。

 これはもしかして、それに関わるものだろうか。

 帰ったら調べてみよう。

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