第36話 やさしさに包まれたなら⑤

 騎士さんたちは一旦、病院へと連れて行かれることになった。

 体力が回復したら、領主様のところで騎士として働くか、それとも元いた国へと戻るのか、それぞれに確認するそうだ。

「あの、騎士さんたちを助けていただいて、ありがとうございました」

 客間に戻ってきて、一息。再びメイドさんがお茶をいれてくれた。美味しい。

「こちらこそ。私では上手く説得出来なくてね。手間を掛けさせてしまった」

「いえ。騎士さんたちに会えて、嬉しかったです」

 次に会えた時には、元気な姿になっていたらいいな。

 もし隣国に帰るのだとしても、その前に一度、ゆっくり会えたら嬉しい。


「イヅルくん」

「はい」

「その、君の作った味のあるポーションは、ミネストローネ以外にも色々あるね?」

「はい。色んな味を作ろうと思っています」

「ふむ。では定期的に、領主邸で買い取らせてもらえないか?」

 ……領主様のご飯になるやつですね?

 まわりの、特にメイドさんの眼差しが強い。ポーションを飲んでもらうことに、余程苦労しているんだろうな。

「あまり量は多くなくても、大丈夫ですか?」

「勿論だとも」

 なんとなくだけど、たくさん納品してしまうとこの領主様、ポーションだけを本気で飲み続けそうな気がした。でもそれでは更に骨と皮になるんじゃないだろうか。どうなんだろう。

「あの……普通の食事も、ちゃんと食べてくださるなら」

「善処しよう」

 本当に大丈夫かな。


 そこからは執事さんがやってきて、詳しい内容を詰めた。

 一ヶ月に一回、僕の家に騎士さんがやってきてポーションを引き取り、領主様の家で数と品質と味などの確認が済んだ後、後日執事さんが代金を持ってきてくれる、という流れ。翌月納品分の要望などもあれば、その時伝えてくれるそうだ。

 味に細かな指定はないけど、体力ポーションは少し多めにほしいとのこと。領主様は甘いものは苦手らしいので体力ポーションは食事系の方が良いようだけど、奥様やお子さん、あとは使用人の人たちも飲むことがあるようだから、甘い味もあっていいそうだ。

 そして流石領主様。買い取り価格もお高めだった。

 一日一本から二本計算でおよそ五十本を一ヶ月分だとしても、ずいぶんな大口取引だし、実に安定した収入だ。

 更には支払いが後払いになる為、初回一ヶ月分の材料代にと、結構な金額を貰った。すごい太っ腹。

「でも、良いんですか?こんなに待遇が良くて。監視していたとはいっても、今日会ったばかりの人間ですけど」

 ちょっと不安になり、問い掛ける。

 その間に領主様はしっかり魔法で契約書を作成してくれている。至れり尽くせりが過ぎる。

「ああ、イヅルくんは隣国から来たからまだ知らないんだね。私は『慧眼』というスキルを持っているんだよ」

「けいがん、ですか」

 何だっけ、本質を見抜くとか、そういう意味だったかな。

「そう、慧眼。だから君を信用したし、あの騎士たちも助けようと思った。ただね、私はこの街……この国に害をなすものには、決して甘えはないし、許しはしないよ」

「心強いですね」

 だから、この街は平和なのだろう。

 絶対に敵には回したくないけど、味方でいるのなら心強い。そんな感じの人だな。

 そしてこの領主様に辺境の地を任せたのだから、国王様もきっと優れた方なんだろうな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る