愛し子はポーション作りとスローライフを満喫しています

怪人X

第1話 そうだ、ポーションを作ろう①

 高校の修学旅行の移動中、飛行機が墜落したらしい。

 そしてクラス全員、いわゆる異世界召喚された。

 クラスの中でも存在感がなく『陰キャ地味眼鏡』と言われている僕は、どうやら無能らしい。

 で、国境を越えた隣国の森に捨ててこい、と。


「スピード感ありすぎて、夢みたいだなあ」


 国王、貴族やクラスメイトはともかく、召喚した国の騎士さんはまともだった。

 隣国に捨ててこい発言からこれまで、何度も申し訳ないと謝ってくれて、お金や生活の為の道具もいくつかくれた。騎士さんたちの責任ではないけど、正直着の身着のまま放り出されたら途方にくれることが間違いないので、ありがたい。国は出してくれそうにないし、恐らく騎士団の経費か、騎士さんたちの自費だろうに。

「騎士さんも大変ですね」

 などと言ったら、屈強な男たちが更に謝って涙まで流すので、それは流石に少し困った。上がああじゃなあ。苦労するだろう。

 ともあれ、騎士さんは魔物などがほとんど出ない街道の側まで連れてきてくれた。

 人目につくとまずいので、街道までは一緒には行けないとまた謝られたけど、そりゃあ勝手に隣国の国境越えてるしね。なんか色々ガバガバだなあ。

 それでもだいぶ側まで連れてきてくれてあて、あと五分ほど歩けば街道があるし、その道に沿って三十分ほど歩けば辺境の街に着くらしいことまで教えてくれた。

 隣国は小さな国だが、国王はまともらしい。

 僕たちを召喚した国とは折り合いが悪い、というか隣国の王はまだ若いらしく、それをあの国王は勝手に見下して蔑んでいるらしい。

 なんかもう本当、上司って大事だなあ。


 そんな心やさしい騎士さんたちと円満にお別れし、一人でまずは街道を目指して歩く。

 さて、僕には街に着く前、人に会う前に、確認しておきたいことがある。

「ステータス」

 こう呟くと、なんと自分の情報が見える。すごいな、異世界。

 目前に字が浮かび上がって見えるけど、どうやらこれは自分にしか見えないらしい。実に不思議だ。

 鑑定というスキルを持っている人は、そのスキルを使うと他の人のステータスとかも見えるようだけど。その鑑定で、僕は無能と判断されたわけだ。




月立 壱弦  ツキタチ イヅル

十七歳 男

体力 90/100

魔力 100/100

スキル なし(隠蔽状態)




 ちなみにこの『(隠蔽状態)』は、鑑定した人には見えなかったようだ。

 隠蔽されていない正しいステータスを、詳しく見るとこうなる。




月立 壱弦  ツキタチ イヅル

十七歳 男

体力 90/100

魔力 10000/10000

スキル 隠蔽∞

    鑑定∞

    全魔法∞

    無詠唱∞

    錬金術∞

    弓A

    運∞

固有スキル

    精霊の愛し子

    異世界人(全言語自動翻訳)




「……やっぱり見間違いじゃないなあ」

 最初に見た時は見間違いかと思った。

 魔力なんて一桁どころか二桁も違うし、賢者だと鑑定されていたクラスメイトの魔力ですら1000も行っていなかったのに、すごいと称賛されていた。

 大体、スキルの無限大表記がまずおかしい。

 勇者と鑑定されたクラスメイトの剣術はBで、あの国一番の強さを誇る騎士団の団長でさえAらしい。スキルは成長するけど、A以上はないとも言っていた。

 だからとりあえず、僕のステータスはおかしい。

 使った記憶もない隠蔽が発動していて良かった。流石、なるべく存在感を消して静かに生きてきた甲斐があったというもの。


 とにかくそんなわけで、他人に見せられるスキルは僕にはない。

 固有スキルなんてもってのほかだ。異世界人はみんな持っているだろうからともかく、精霊の愛し子の方は説明書きもないし、怖すぎる。

 国に拘束されて魔王を倒しに行く旅に出掛けるなんて、絶対にごめんだ。僕は穏やかに過ごしたい。

 それから折角異世界に来たんだから、ポーションを作ってみたい。


「あ、街道発見」

 これまでの草むらではない、明らかに整備された道。

「ええと、ここを右方向、それからずっと真っ直ぐ……だね」

 本当に、騎士さんありがとう。

 そうだ、馬車が通るから真ん中じゃなくて道の端を歩いた方がいいと言っていた。色々日本とは違うところが多いから、こういうささやかな助言さえありがたい。

 騎士さんたちにはいつかきっと恩返しをしよう。

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