青い服の少女

肥後妙子

第1話 最初は見えなかった

 僕たちの通う中学校の通学路に彼女が現れるという話をし始めたのは、クラス委員長の小染さんだった。季節は九月。新学期の始まりとともにその話題は訪れた。校庭にはまだ蝉の声が残っていた。

 一日目。

「ねえ、学校の前の道に変な女の子が立ってなかった?青い服着てるコなんだけど、ずうっと突っ立っていて、なんか変だった」

「いや、別に?変な奴なんていなかったけど。別に突っ立ってても良くね?ただの暇人だろ」

そう答えたのはサッカー部を引退した椎名君だ。

「うん……でもその女の子、裸足だったんたけど……」

「えっなんだよそれ。やめろよ怖えなあ」

 会話する二人の周りにいた人たちも、ちょっとざわめいた。僕はその時いつも通りに文庫本を読んでいたのだけれど、なんとなく聴き耳を立てていて驚いてちらっと振り向いた中の一人だった

「まあ、私の見間違いかもしれないけど」

小染さんがそう言った事で、その時はそれで終わった。

 しかし翌日に出来事は続くのだ。

  

 二日目。

 「ねえ、小染さん、昨日言ってたことだけど」

卓球部の部長だった田野中さんが小染さんに話しかけていた。

「通学路に青い服を着た女の子が立ってるって言ってたでしょ?その子、今日も立ってたんじゃない?」

「あっ、田野中さんも見た?私も見たんだけど他の人は気が付いていないみたいで……」

「うん、青いワンピースで髪が長くて裸足の女の子でしょ?私も見たんだけどあの子昨日の下校時刻にも居たのよ」

そんな二人の会話を遮るように椎名君が口を開いた。

「オイオイ、よせよそんな事言うの。俺も通ったけど、そんな奴いなかったぞ」

「椎名君の言うとおりだって。見た事無くっても暗示にかかって見た気分になっちゃうんだぞ」

椎名君と同じサッカー部だった藤原君が注意するように言った。小染さんと田野中さんは顔を見合わせると、不服そうな表情をしながらも会話をやめた。僕もその時は椎名君や藤原君の言葉に同感だったのだ。まだ、その時は。


 その後、青い服の少女の目撃者はどんどん増えていった。全校規模で。


「凄くやつれた感じで……」

「私も見た。なんであの子裸足なの?」

「あれだろ?やっぱ幽霊なんだろうが」

「えーだって私、霊感とかないよ」

「俺は見た事無いけど、ホントにお前ら見たのかよ」

「私達が嘘をついてるとでも?」

「嘘とは言わないけど……。ほら、集団で暗示にかかったりするとか言うじゃない?現に全然見ない人だって多いもの。自分がそう言ってたでしょ、藤原君!」

「見えない人と見える人がいるってことは、やっぱり幽霊なんじゃない?」

 教室では青い服の少女を見た派と見えない派で、対立が起こりそうだった。


「うーん、なんでこんな事に……」

「最初に言い出したのお前だろ」

僕の目の前でも小染さんと椎名君が小競り合いを始めそうだった。僕が心配して二人を見ると、小染さんは目を伏せながらも悔しそうな表情をしたけど椎名君は真っ直ぐ見返してきたので目が合った。


「君澤君は見た事ある?青い服の女の子」

「えっ」

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