第3話 眠りは突然に

 男の子と一緒に走り始めて少したった。人って本当にパニックになった時って何もできずにいるんだなぁと思っていた。


「これは閉じ込められたかも…」


 男の子がまた不思議な事を言った。


 閉じ込められた?もう訳がわからないよ……


 ただ走って逃げているけど冷静になって辺りを見てると結構走ったはずなのにずっと同じ様な所を走っている感じがする。もうそろそろどこか大通りに出てもいい頃なのに。ふと思った違和感はどんどん大きくなる。


 おかしい…、絶対おかしいよ!


 今日何回おかしいと思ったか。


「このまま逃げててもいつかは見つかるから、とりあえず結界張って兄さんが来るのを待とう。」


「ちょっと待って!色々説明して欲しい」


「お姉さんごめんね、巻き込んじゃってとりあえず結界張るからその後で説明するから」


「結界って…」


 そう言うと男の子は何かをしようとしたその時。


「見つけましたよ」


「「!!!」」


 男の人の声が聞こえてそちらに視線を向けると見たこともないようなイケメンがいた。黒髪に血のような真っ赤な目、そして顔は恐ろしいくらいに整っている。ひと目でこの男の人が人じゃない気がした。なんたって日本人の顔立ちではないし、何より赤目なんてこの地球にはいない。


「遅かった…」


 そう言うと男の子は私の前に出て守るような態勢になる。


「そう警戒しないでください。私はただお話をして私の父に会って頂きたいだけなのですから」 


「僕は話すことなんて無いしお前の父なんか会いたく無い!!」 


「そうは言っても話を聞けば君はこちら側につくだろう」


「僕はそちら側につくつもりは無い!!どれだけ言われようとも絶対に無い!!」


「そうですか、これまでは優しく話すだけにしてましたが。そろそろ強引に連れて行きましょうか」


「!?」


 男の人がそう言った瞬間言葉に出来ないような緊張した空気感になる。一歩でも動けば消される様な。冷や汗がドッと出る。


 これはやばい…どうしよ、全然何も出来ない。


 逃げ出したいが逃げれない。文字通り体が固まったかのように動かない。ただの人にはこんな事できない。目の前の男の人は何者かなのか底知れない恐怖が襲ってくる。


 だけどあの男の人私には見向きもしない。まるで見る必要がないような感じ。


 実際彼はえいみの事など眼中に無い。弱くてちっぽけな存在は見なくともいいという考えだ。目の前の男の子だけ連れて行ければあとはどうでもいい。だが見られた事はまずいので眷属にでも始末してもらうつもりだった。


「さぁ一緒に行こうか。抵抗するだけ辛いよ」


「嫌だ!僕は諦めない!絶対兄さん達が助けに来てくれる!」


「ははっ!面白いこと言うね。私のこの空間に入っていることをお忘れですか?君のお兄さん達が来た時にはもう遅いですよ。さぁお話はここまで行きますよ」


 そう言うと男の人から黒いお化けの様な得体の知れないものが男の子目掛けてやってくる。恐怖に意識が飛びそうになる。男の子も必死に何か結界のようなバリアを3枚つくった。


「諦めない!お姉さんも巻き込んで本当ごめん!絶対守るから!」


『パリンっ!』


「っく!」


 男の子は必死に守ってくれている。だか黒いお化けは容赦無くこちらに向かってくる。最後の1枚それすらも破られてしまう。


「さぁもう諦めなさい」


 そしてもう目の前まで来た黒いお化けがその体を使って襲い掛かって来た。


「ダメ!!」


 とっさに体が動いた。今まで動けずにいたのにもかかわらず。男の子を守るように抱きしめた。黒いお化けが私の体に触れた瞬間気がどんどん遠くなるようだった。でもさっきまで必死に自分のことを守ってくれた男の子を助けたかった。その気持ちが届いたのか、体から何か力が湧いてきて光が私たちを包んだ。


 なんかふわふわした気分。でもこのお化けから男の子を守らなくちゃ


 そうもう一度思った。その時光が強くなり黒いお化けをも包んだ。目が開けられないほど強く光り輝いた。ぼんやりする目を開けて辺りを見ると黒いお化けはいなくなっていた。


 よかった…いなくなった。男の子は大丈夫!?


 抱きしめていた腕を緩めて男の子見る。涙を流していたが怪我などは無さそうだ。


 大丈夫みたい……


 そう思うと体が急に鉛のように重くなった。そして急に眠くなった。なぜかは自分はもう死ぬなと思った。倒れていく体、ゆっくりと閉じていく目蓋。

そうして私の意識もなくなった。

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