幼馴染の妹だって恋愛対象だよね!

黒井しろくま

​───登校、隣にいるのは…

 17歳の誕生日…俺は幼馴染である水瀬風花に告白をした。


結果は惨敗──冬馬の事…そんな風に見れないな。でも、幼馴染としては好きだからこれからも仲良くしてね


 振りの常套句に俺は乾いた笑いで返事することしかできなかった。

きっと俺はどこかで幼馴染と結婚をするラノベの主人公を夢見ていたのだろう。

 一緒に帰ってくれたのも、お泊まり会したのも全部…全部、幼馴染だから。


 そんなことを思い始めたせいか不思議と涙は出なかった。

人が恋に恋する様に俺も幼馴染に恋する展開に恋していたんだと──



 翌日の朝…いつも通りにして欲しいと言われた俺は風花の家の呼び鈴を鳴らす。

いつも玄関前で数分待ち…その後一緒に登校するのが俺たちの日課だった。

 正直どんな顔で会えばいいかは分からないし気まずい。


 スマホの画面を見つめながら待っていると風花に似つかわしくない忙しない足音が玄関へと向かってきた。


「お兄ちゃん!今日から私と行きましょう!ちなみにお姉ちゃんなら彼氏と先に学校に行きました!」

 開口一番で情報量の多い言葉を連ねてくるのは風花の妹──水瀬ルカ[みなせルカ]だった。


「いや…ちょっと待て。どういうこと?」

「肩を落とさなくても大丈夫です、告白失敗したんですよね!」

「その事は知っててもいいんだけど……風花に彼氏って…」

「あっ……すいません…お姉ちゃんに言わないでって言われてたんで聞かなかったことにしてください」


「大丈夫です…だって私がいるじゃないですか!」

 風花のやつ…情けか何か知らないが彼氏がいるなんて聞いてないぞ。

好きな人…いる?って聞いてはぐらかしてきたのは俺が好きだったからじゃなくて既に彼氏持ちだったからか…!


「話は後々聞くとして…ルカちゃんとりあえず学校行こっか…」

「そうですね!お兄ちゃん暗い顔してると気持ち悪いですよ」

「ちょっと傷心してるの分かるなら毒浴びせないで?俺のライフポイントは0よ?」

「私は鬼畜なので速攻魔法唱えます」

「やめて、バーサーカーソウルで羽蛾になるのやだ」


 見れば見るほど風花に似ているな……流石姉妹なんだけど昨日の事思い出しちゃうのがちょっと傷。

 天真爛漫で水瀬家にお邪魔した時もよく懐いてくれていた印象が強い。


「ルカちゃんは…」

「お兄ちゃん、ルカって呼んでください」

「ルカちゃっ…」

「ルカ」

「ルカは俺と登校してていいの?友達とかは?」

「友達ですか………お兄ちゃんがいればいいです」

「実の兄の様に慕ってくれるのは嬉しいけど俺たちも高校生だ。カップルに間違えられるの嫌だろ?」

「わ…私は寧ろバッチ来いって感じです!街中インタビューで全国に恋人だって言ってやりますよ!」


「どうですか?美少女ですよ私」

「否定はしないが自分で言わないだろ…」

「否定はしないんですね……えへへ」

 ルカは自然と上がる口角筋に抗えずにニヤニヤと笑みをこぼしてしまう。


「それに……私だって幼馴染なんですからね」

「まぁ……間違ってはいないよな。幼い頃からずっと一緒にいるんだから」

「お兄ちゃんは……!」


 2人は雑談を交わしながら歩いていると校門の前まで来ていた。

生徒指導の先生が校門前で遅刻チェックを行い間に合わなかったら反省文を書かされる。


「やばいっ…!早く行かなきゃ反省文書かされる…ルカ行くぞ!」

「お兄ちゃんっ…!強引ですって!」

 冬馬はルカの手を取ると時間ギリギリの校舎に向かって走り出す。

なんとか間に合ったが時間は残り1分も無かった。


「朝からっ…手繋ぐなんて……意外と肉食なんですね」

「不可抗力だから我慢してくれ」

「お兄ちゃん!お昼ご飯は誰と食べてますか?」

「昼…?いつも1人だが…」

「ではお昼に迎えに行くので一緒に食べましょうね!」

「構わないけど…ルカは友達と食べなくていいの?」

「ノープロブレムです!」

「じゃあ、12時に迎えに行くので!」

 ルカと冬馬は学校指定の上履きを履きながら昼食の約束をする。

一年生の教室は二階、二年生は三階になっているため2人は階段を登り始め踊り場で別れる。

最後までブンブンと大きく手を振ってくるルカに対して手首だけを使って手を振り返す。



 あぁ…クラスに入りたくないな。別れた翌日とか振られた日って教室の扉が魔門に感じるのは俺だけでしょうか…。

彼女はいたことないし、昨日振られたばかりなんですけどね…はい、ブラックジョーク。


 仕方なく扉を開け何もありませんでしたと言わんばかりに自然体を装う。

窓側の後ろから2番目……特等席に座り空を見上げて時間を潰す。

同じクラスの風花が気まずそうに俺の方をチラチラ見ているけど…ここで俺が動揺したら余計に気まずくなってしまうだろう──僕は…影だ。


 朝のHRが終わると1人の女子生徒が冬馬の机へと近づいてくる。

冬馬のひとつ前の席へと座り、指で肩をつついてくる。


「冬馬…おはよ〜」

「………」


「あはは…昨日の事気にしてるよね。それと朝のことも…」

「昨日のは仕方ない事だろ。それに朝は俺が行くのが遅かったからだ…こっちこそ悪い」

 嘘である。彼氏がいることも全てルカに聞いていたからな。


「明日からは……別々で行かない?」

「わかったよ」

 理由は追求しない。

分かりきったことを本人の口から言わせる方が今の俺にはキツいからだ。


「理由は……」

「いや、言わなくていい」

「えへへ…そっちの方が助かっちゃう」

 仮にも好きな女の子@幼馴染だ。

私…彼氏いるの。なんて言葉を直接聞いた日には耳が腐ってしまうだろう。


「あっ…!授業始まっちゃうね…またね」

「居眠りするなよ」

「ばーか、しないよ!」

 

 自分が喉から手が出るほど欲しいものは手に入らない……人生にロード機能はないんですかね。

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