第2部
第1話 新迷宮と再始動
「お、やっと来たな? ユーク。復帰初依頼が
「茶化すなよ、ベンウッド」
秘密の話にはもってこいの冒険者ギルドの応接室で、俺は苦笑する。
俺の元所属パーティ『サンダーパイク』の一連の事件が終わり、約一ヵ月……俺達『クローバー』の謹慎明けのその翌日。
メンバーと協議の結果、受けることにした
「それで? もう一度、この
「おう」
ベンウッドが資料らしきものをテーブルに広げる。
「場所は交易都市ドゥナの近く。ライン湖のほとりだ。そこに、新しいダンジョンが発見された」
「経緯は?」
「地元の住民が釣りに行った際に見つけたらしい。ギルドに報告があって、簡易調査をかけたら……ダンジョンだったってわけだ」
確かにあの辺に迷宮があるという話は聞いたことがないな。
俺自身、ドゥナには行ったことがないし。
「それで現状は? ダンジョンって判明してるってことは事前調査には入ったのか?」
「一応、ギルドと王立学術院で入り口と内部の環境チェックだけはしてある。本格的な進入と調査はお前たち任せってわけだな」
事前調査なしの完全初見か。
まだ情報のうすっぺらい資料を見ながら少し緊張していると、ベンウッドがにやりと笑った。
「『無色の闇』に入って生還してるんだ。そう緊張することもないだろ?」
「確かにあの
苦笑を返して、資料の情報を頭に入れる。
場所は湖畔からほんの少し離れた丘の上。
入り口は下り階段で、内部は地下水路のように見えた、か。
湖のそばにあるってことは、都市部に水を引き込むための水路が迷宮化したってことか?
それとも、地下水路を備えた古代都市でもあったのか?
いずれにしても、踏み込んで見ないことにはわからないことばかりだ。
「今回も『無色の闇』と同じ方式で頼む」
「〝生配信〟してそれをギルドと学術院で判断だな?」
「そうだ。それと、もし見慣れない魔物がいたら素材はできるだけ持ち帰ってくれ」
「了解した」
「コイツで実績を積めば、また『無色の闇』へのきっかけになるかもしれんしな」
ベンウッドは気を使ってそう言ってくれたのであろうが、どうにも今はそんな気持ちになれなかった。
俺の目標であり、夢であり、『クローバー』の目指す場所であった『無色の闇』はいまや『サンダーパイク』の墓標でもある。
そして、今も幼馴染の怨嗟の声が響いているであろう場所だ。
今でも、時折夢に見る。
それなりのストレスがかかっているのだろう。
「……どうした、ユーク?」
「いいや、問題ない。向こうのギルドには話をつけてあるのか?」
「ああ。ドゥナにはAランクの冒険者はいないしな。それに、これは中央からの要請でもあるんだ」
「中央からの?」
俺達『クローバー』を中央が把握してるとは驚きだ。
何せ、今の俺達はCランクパーティに逆戻りしているし、話題性のあるパーティは中央の方がずっと多い。
何故なら、中央にはこの国における最難関最重要迷宮の『王墓迷宮』があるからな。
「明日朝イチでドゥナに向かうとするよ」
「ついでにもう一つ依頼を受けてくれんか? ドゥナ行きのギルド御用馬車の護衛依頼なんだが」
依頼票をひらひらとさせてベンウッドが口角を上げる。
ベンウッドめ、職権乱用だぞ……依頼にかこつけて俺達に馬車を用立てるなんて。
「承った。ありがとう」
「俺は依頼を一つ増やしただけだぜ」
二枚目の依頼票にサインを入れて、席を立つ。
相変わらず過保護なことだと思うが、知らない場所へ行くのだ。
ありがたく助けてもらうとしよう。
「じゃあ、戻って準備をする。見送りはいらないぞ」
「かわいくねぇ奴。まぁ、気を付けて行ってこい」
「ああ、朗報を期待していてくれ」
軽く手を上げて俺を見送るベンウッドに頷いて、応接室を後にする。
これで依頼の受託は完了だ。
階段を二つ降りて、冒険者ギルド併設の酒場に向かう。
依頼受諾自体は俺一人でよかったのだが、久しぶりの冒険者ギルドの空気ということで、全員がついてきてしまった。
ネネまでついてきたのは少し驚きだったが。
「依頼はオーケーだ。ついでにドゥナまでの馬車護衛依頼も回してもらった」
「さっすが、ユーク!」
マリナがテンション高めに大仰に喜ぶ。
「交易都市、でしたっけ。冒険者通りなどはあるのでしょうか?」
シルクは早速実務的なところに気を回しているようだ。
この慎重さは重要だが、出たとこ勝負というのもまた仕方ないことである。
「それも行ってみないとわからないな。迷宮都市ではないけど、冒険者はそれなりの数いるみたいだし、物自体は交易都市だし揃っているだろう」
「
レインが少ししゅんとした様子で俺を見る。
ここのところ、ほぼ毎日のように
「国境が近い都市だし、国外からの持ち込みがあるかもしれないぞ。何も
「そっか……!」
隣国サルムタリアは錬金術のかなり盛んな国だ。
最新の
「ちょっと、楽しみになって、きた」
わくわくとした様子のレインの横で、ネネが少し緊張した様子で耳をぴくぴくさせている。
「どうした、ネネ?」
「いいんすかね? 私みたいなぽっと出が『クローバー』として
「そんなこと、気にすることないさ」
軽く肩を叩いて、思わず笑う。
「ネネなしで初見迷宮に挑むなんてぞっとするよ。頼りにしてるんだ、君を」
「は、はいっす! 頑張るっす!」
ふわふわの尻尾をピンとたてて震わせて、ネネが笑顔をこぼれさせる。
あの尻尾、触らせてくれないだろうか……。
「さぁ、それじゃあ準備を始めようか。今回も、慎重に楽しもう!」
俺の言葉に全員が笑顔で頷いた。
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