第30話 夢のマイホームと大切な要素
「うぅーん……なんだか、ここの料理も久しぶりって気がする!」
馴染みの食堂で肉を頬張りながら、マリナが溌剌とした笑顔を見せる。
「まあ、一ヵ月ぶりだしな」
クアロトでの依頼を終えて、俺達はようやくフィニスへと帰還していた。
二度にわたる俺達の聞き取りと配信映像の確認作業を経て、結局、クアロトの冒険者ギルドは『アイオーン遺跡迷宮』の一時閉鎖を決めたようだ。
これまでとは違い、
「さて、今日はどうする? 移動の疲れもあると思うし二、三日は休養日にしようと思うんだが」
「ええと……それでしたら、これから不動産屋さんに行こうと思うのですが、いかがでしょうか? クアロト出発前に条件を伝えておきましたので、すでに候補が決まっているはずです。後は内見だけかと」
「そりゃいい。ぜひご一緒させてもらおう」
パーティ拠点を構えるためにずっと貯金をしていた三人の目標がついに達成される。
途中参加とはいえ、仲間の夢がかなうのは気分がいいものだ。
三人がどんな家を選んだのか、俺も見せてもらおう。
「じゃ、行こう行こう!」
すっかり料理を平らげたマリナが口の端にソースをつけたまま立ち上がる。
それを濡らしたハンカチでぬぐい取って、俺も席を立つ。
どうにもこのおっちょこちょいは、妹でも見ているような気分にさせるな。
ついつい、甘やかしたくなる。
一人前の大人として、いっぱしの冒険者として、こんな風に接するのはよくないと思いつつも……。
「ありがと。ユーク」
これだもんな。
「頼んでる不動産屋さんは、東通りの『マンデー不動産』です」
「ああ、そこなら安心だな。冒険者ギルドと提携してるし」
「……そんなことまで知ってるんですか?」
「サポーターの知識は広い方がいいだろ?」
町の中のトラブルだって依頼として受ける冒険者として、町にある大店の評判を知っておくのもサポーターとして大事なことだ。
『マンデー不動産』は比較的老舗の不動産屋でかなり手広くこの街の物件を取り扱っている。
冒険者ギルドとも提携して、“居つき”の冒険者に拠点や家屋、アパートを提供することもあるので、信用のおける業者と言えるだろう。
四人で連れだって、大通りを歩く。
『アーシーズ』の
時には立ち止まって振り返る奴がいるくらいだ。
それでもって、その内の何人かは俺を恨めしげな目で見る。
ま、三人が有名になればこういう事もあるだろうとは覚悟していたし、もう諦めているから気にはしないが。
「お、来ましたね、『クローバー』の皆さん。お待ちしておりましたよ」
マンデー不動産に到着すると、通りを掃き清めていた初老の男性がこちらに気付いて営業スマイルをした。
俺も一度、
マンデー不動産の商会長……その名も、マンデーだ。
「お噂はかねがね。いい仕事をなさっている様で結構、結構。さて、ご要望に沿う物件をいくつかピックアップしてございますよ。すぐに内見されますか?」
「はい。お願いします」
シルクに頷いて、マンデーが店舗に一声かける。
どうやら商会長自ら物件案内をしてくれるようだ。
「ご希望に沿うのは三件ございます。まずはこちら……」
しばらく歩いて小さな辻を曲がったところにある平屋を指さして、マンデーが説明を続ける。
「築浅の木造平屋です。十分な部屋数とお望みの機能をすべて備えております。キッチンだけは少し手を入れなければならないかもしれませんが、大通りへのアクセスもよく、玄関前と裏手には庭があります」
ざっと中を見て回る。
確かに広い。地下に収納スペースもあり、内装もかなりきれいだ。
だが……。
「ここは止しておいた方がいい」
「そうなんですか?」
「ああ。平屋は空き巣や襲撃者に弱いし、覗きにも対処しにくい。女所帯はそういったものに狙われやすいし、君たちに向かないと思う。下手をすると宿屋よりも気が休まらないかもしれないぞ」
「これは失念しておりました。では、次に参りましょうか」
「そ、そうですね。では、次をよろしくお願いします、マンデーさん」
頷いて、マンデーが案内したのは西地区の一角にある、石造りの二階建ての四角い建物だった。
周囲には似たような建物が建ち並んでおり、統一性の取れた街並みになっている。
「こちらはアパルトメントを家族用住居に改修したものとなります。一階部分が共用スペース、二階部分が各個人のお部屋となっております」
「これは、なかなかいいな」
「あたしもさっきよりこっちが好み!」
広めの地下倉庫もあるし、屋上にも上ることができる。
もともとアパルトメントとして機能していた為か、広さも十分だし作りもしっかりしている。
「あと一件、ご紹介いたしますね」
そう案内されたのは、北地区にある大通りに近い場所。
周囲に飲食店や宿が多い場所で、俺にとってはそれなりになじみのある場所でもある。
「どう、したの?」
浮かない気持ちがうっかり顔に出ていたらしい、レインが俺の服の裾をつまむ。
相変わらず、どうしてこういう時に目ざとく見つけてしまうんだ、君は。
「この辺、『サンダーパイク』の拠点があるんだよ。鉢合わせたら気まずいなって思ってさ」
「そうなんですか? では、マンデーさん……この物件の内見は結構です」
「左様でございますか。それで、お気に召す物件はありましたか?」
すぐさま道を引き返しつつ、マンデーが尋ねる。
「あたし、さっきのところがいいな」
「ボクも」
「わたくしも、あそこがいいと思います」
確かにあそこなら三人でも手狭にはならないし、西地区なので治安もよさそうだ。
しかし……。
「いいのか? こっちの物件は見なくて」
「あんな人たちとご近所さんになるのは嫌ですし、先生だって顔を合せたら気まずいと言っていたじゃないですか」
「そりゃそうだが」
俺の言葉にマリナが手を叩く。
「じゃ、あのおうちに決定! さー引っ越しだ―!」
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