第12話 危険な魔獣と配信デビュー
「それで、何があったんですか?」
馬車の中には俺たちだけ。
話をするにはちょうどいい。
「知らないやつに後をつけられたんだ。それでもって、パーティを抜けろと脅しをかけられた」
「もしかして、それは小太りの男性ですか?」
「ああ、そうだ」
シルクはあの男を知っているようだ。
「あー、あのヘンなおっちゃん?」
「しつこい、やつ」
「やっぱり、三人とも顔見知りだったか」
俺の言葉に、シルクが大きなため息を吐く。
「冒険者ギルドで何度も声をかけてきた人です。“パーティに入ってやる”とか“男手も必要だろ”とか……。断ってもしつこくて。困っていたんです」
「大きい事を吹聴してた割に、実力も大したことなかったもんね。
「街中で剣を抜くようなバカだもんなぁ……」
俺の言葉に、三人が一斉にこちらを見る。
「怪我、ない? だいじょぶ?」
「ああ、問題ない。本人は魔法で眠らせて放置してきたしな。はー……しかし、困った奴もいたもんだ」
「すみません、先生。わたくし達のせいで危険な目に合わせて」
「君たちのせいじゃないよ。それにあんなのは危険のうちに入らんさ」
もし、あの時……お互いに剣を抜いたとしても、勝ったのは俺の方だろう。
剣術にそう自信があるわけではないが、そんな俺から見ても明らかに隙だらけだった。
正直なところ、あのまま襲われていたとしても、素手で制圧できたと思う。
「ま、帰ったらギルドに報告もしておくし、また来るようならしっかり対処させてもらおう。その辺のトラブル処理は、サポーターでリーダーの俺の役回りだからな。みんなも、注意してくれ」
「さすが、ユーク! 頼りになる!」
「褒めたって飴玉しか出んぞ」
懐から取り出した飴玉をマリナに握らせて苦笑する。
「……でる、んだ」
「出ましたね……」
レインとシルクも欲しそうにしているので、飴玉を渡しておく。
「さて、ここからは切り替えていこう。まずは依頼の確認。主目的は『ヨームン滝の丸石』を四つ回収することだ。これは滝つぼまでたどり着けば問題なくできる」
「問題は魔獣ですね」
魔獣は
主に動物の姿をしている
つまり、正体は不明だが、オルダン湖畔森林で危険視されている
これは、わりと重要な情報だ。
これがオルクスやボルグルといった組織的な集落を形成する人型
「森林地帯に生息するってことは、熊、鹿、狼、猪……といった何かの魔獣だろう。そう言えば、以前にもオルダン湖畔森林に行ったって言ってたよな?」
「うん。二ヵ月前だったかな? その時は『夜香草』の採取の依頼だったよ」
「
俺の質問に、マリナが首をかしげる。
「そういえば……そういうの、いなかったね。普通の動物にも、出くわさなかったと思う」
マリナの返答に、背中がぞわりとする。
初めてのエリアであれば「そういうものだろう」と考えるのも不思議ではないが、オルダン湖畔森林は、近くの集落で謝肉祭があるくらいに生き物の豊富な森だ。
運よく遭遇しなかっただけで、その魔獣はきっとその頃から森に潜んでいたに違いない。
「……まずいな。ちょっと気を引き締めたほうがよさそうだ」
「そんなに?」
「ああ。周囲の動物が息を殺して身をひそめるほどに緊迫しているなら、例の魔獣は相当な大物かもしれない。出くわさないように気を付けたいが……」
気をつけるが、難しいだろう。
冒険者が相次いで襲われているという件を鑑みれば、その魔獣は森を往く俺たちを見逃しはすまい。
襲撃があると考えてしかるべきだ。
「森に入ったら、『ゴプロ君』を飛ばして記録を取る。遭遇、戦闘になったら〝生配信〟に切り替えて可能なら討伐、逃げるにしても姿は捉えておきたい」
「どうして、〝生配信〟、するの?」
レインが首をかしげている。
「いくつか目的がある。まず、一つ目は現在ギルドでも未確認な魔獣の種類の特定。あと、配信中に危機的状態に陥れば、それを見たギルドが増援を寄越してくれる可能性がある。あと、上手く魔獣を退治できれば、その配信でもって討伐証明ができるだろ?」
「〝配信〟ってそういう使い方もできるんですね……」
「もっとみんな使えばいいのにな」
今回、魔獣が『不明』となっているのは、オルダン湖畔森林に向かうような低ランクパーティが配信用の
まぁ、整備には錬金術師の手がいるし、そう安価なものでもない。駆け出しの冒険者が配信用
むしろ、俺としては『ゴプロ君』をはじめとする配信用
「いよいよアタシたちも配信デビューだ!」
「配信映えする服、買えば、よかった……」
やる気に溢れるマリナと、意外と乗り気なレインが少し面白い。
レインはこういうの嫌がるかと思ったんだが。
「か、髪型とかこれでいいんでしょうか? ヘンじゃないですか?」
もしかすると「遊びじゃないんですよ」なんて二人を叱るかと思ったが、シルクも見栄えを気にしているらしい。
なんだ、年相応に可愛いところもあるじゃないか。
……ダークエルフの年相応って、本当に年相応なのか?
「大丈夫だよ、ユーク。シルクはちゃんと十七歳だから。おばあちゃんじゃないよ」
「……俺は何も言ってないぞ」
「マリナ、わたくしの年齢を勝手に公開しないでください。先生も女性の年齢を気にするなんて、エチケットが足りませんよ!」
「す、すまない。そんなつもりじゃなかったんだが」
頭を下げていると、レインが俺の袖をついついとつまんで引っ張る。
「ちなみに、ボクが、一番年上……です。二十歳」
「へ? そうなのか?」
一番幼げに見えたレインが、実は俺と同い年だったとは。
女ってのは、見た目じゃわからんな。だって、レインはこんなにも──。
「む……いま、ボクのつつましい部分を、見たね?」
「いや、違う! 見てない! 誤解だ!」
「もう、ダメだよ? ユーク。レインったら、実りに乏しいのを気にしてるんだから」
「だから違うんだって!」
騒がしい時間を過ごしつつ、俺達を乗せた馬車はオルダン湖畔森林へと向かっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます