第5話 採掘ポイントと提案

 地下四階層に下りてしばらく。

 俺達は運よく、採掘ポイントを見つけることができた──そして、ただいま絶賛戦闘中である。


「なかなかの大物だ。これは魔鉄鉱がたくさん採れそうだぞ」


 <鈍遅スロウ>の魔法をかけながら、暴れる『採掘ポイント』から距離を取る。

 その俺の隣を、剣を構えたマリナが疾駆していく。

 その剣は、黒々とした魔力を刃にまとっていて、ひりつくような気配を放っていた。


「てえぇッ!」


 コンパクトに行われた振り下ろしが『採掘ポイント』の頭部を見事に捉えて、サックリと斬り落とした。

 『魔剣士』はかなり珍しいジョブで、その適合者は一万人に一人とも言われている。

 能力は、見ての通り……〝魔剣化〟だ。

 ありとあらゆる武器を禍々しい魔力で包んで、その攻撃力を大幅に増させる。

 熟練の魔剣士は、ミスリル製の鎧でもバターのように切り裂くと言われているくらいだ。


「はぁ……はぁ……」


 その代わり、〝魔剣化〟は体力と魔力を大幅に消耗するというデメリットがあるが。


「大丈夫か?」

「うん! でも、やっぱり十秒くらいが限界だなぁ……」

「能力を使いこなしていけば、そのうち慣れるさ」


 指を振って<魔力継続回復リフレッシュ・マナ>をマリナに付与しておく。


「じゃ、掘ってくるから。三人は休んでてくれ」

「はーい」


 動かなくなった『採掘ポイント』──岩蜥蜴ロックリザードの背に、つるはしを振り下ろすと、結晶化して半ばインゴットのようになった魔鉄鉱がポロリと背から落ちた。

 この岩蜥蜴ロックリザードは、坑道内を動き回って石を食って生活している。

 ただ、こいつが喰うのは石であって金属ではない。結果、不純物となった金属が背中から結晶化して生えてくるという、面白生物だ。


 かつてこの『ペインタル鉱山』で響き渡っていたであろう、金属質な音を坑道に反響させながら、黙々と魔鉄鉱を引きはがしていく。

 中には、普通の鉄鉱や銅もあるがお構いなしだ。これはこれで使い道がある。


「こんなもんか」

「すみません、お手伝いしなくて……」

「いいよいいよ。それより、聞いてなかったんだけど、納品数はどのくらいなんだ?」


 でかい個体だったのでそこそこ採掘できたが、これで足りるとは思えない。


「標準インゴットで1ダースとのことなので……あともう少しですね」

「なら、もう一匹か……一階層下りるとしよう。岩蜥蜴ロックリザードは縄張り意識の強い生き物だ。この辺りにはもう居ないかもしれない」


 生息域的に、六階層ならもう少し多いんだがな。

俺の勘が正しければ、四階層はおそらくこの一匹だけだろう。

かなりデカかったし。


「そうですね。マリナとレインもそれでいいかしら?」

「おっけー!」

「わかった」


 マリナがすっくと立ち上がる。


「マリナ、いけるか?」

「うん! <魔力継続回復リフレッシュ・マナ>ってすごいんだね。だるさが全然違うよ」

「これで回復するってことは、体内の魔力量が問題か……。魔力の鍛錬もしないとな。その内、時間がある時に教えるよ」

「ホントに? ありがとう、ユーク!」


 にぱっと花が咲いたように快活な笑みを浮かべるマリナ。

 こういう明るいのが一人いるだけでパーティの雰囲気は全然違う。


「んじゃ、サクっといこうか」


 そのまま下りの階段へと向かった俺達は、階段エリアで再度の休憩を挟んだのち、問題の五階層へと向かった。

 注意深く探索し、岩蜥蜴ロックリザードを探す。


「いないね……?」

「ああ、誰か討伐しちまったのかもな」


 依頼が出てるという事は、供給が足りていないということだ。

 他の依頼者が他の冒険者に別の依頼を出していてもおかしくはない。

 岩蜥蜴ロックリザード自体は、迷宮の魔力で生み出される魔物モンスターなので、日を置けば再び姿を現すだろうが……せっかくなら一日でやってしまいたい。

 そして、そう思っているのは、俺だけではないようだ。


「もう少し探してみましょう」

「うん。どこかに、いるかも」


 地図を広げて、まだ探索していない場所を探すシルクとレイン。

 その間、マリナは周囲を警戒して安全確保。


 なかなか連携の取れたいいパーティだ。

 これなら、いけるんじゃないか?


「提案なんだが……フロアボスを突破して第六階層に行くってのはどうだ?」


 俺の提案に、全員が驚いた顔をする。


「俺というメンバーも増えたことだし、連携も取れているように思う。突破できると思うぞ?」

「でも、ユークさんに手伝っていただいての突破では……」

「何言ってんだ。もうパーティメンバーなんだから、気軽に頼ってくれ」


 シルクがハッとした顔をする。

 やっぱり、まだ俺が『先生』だったころの感覚が抜けていないみたいだな。


「それに、新参者のプレゼンもさせてもらわないとな」

「プレゼン?」

「ああ。フロアボスでは全力でやらせてもらう。俺が役に立てることを、君たちにアピールしないとな」


 途端に、三人が苦笑する。


「ユークさんのすごさはもう十分伝わってますよ」


 そうだろうか?

 まだまだ、いろいろとできることはあるんだが。

 ま、それを把握してもらうためにも、少し頑張ってみよう。


「でも、そういうならユークさんの提案に乗ってみましょう。わたくしも、ユークさんの全力が見てみたいですし」

「まかせてくれ。それなりに強めの先輩風を吹かせてみるさ」


 自信満々に笑った俺は、三人と共に第五階層の最奥を目指して歩きだした。


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