第114話 芋くさ夫人の娘の縁談(ルーナ視点)3
戸惑うルーナの手を握ったままのエルメは、ずんずん城の廊下を進んでいく。
「ちょ、ちょっと待って……!」
足をもつれさせながら、ルーナは彼に訴えた。
すると、振り返ったエルメは今度はゆっくり、城の一階へ向けて歩き出す。歩調をルーナに合わせてくれたようだ。
「ねえ、急にどうしたの?」
余裕のないルーナは無意識に、幼い頃のようにエルメにため口で話しかける。
もっとも、エルメはあの頃のように、気軽には話してくれないみたいだが。
「『急に』じゃない。俺はお前と話をする気でいた」
「でも、食事中、一度も会話はなかったじゃない。私のことが嫌で黙っていたんでしょう?」
エルメはギョッとした表情で、再びルーナの顔を見た。
「違っ……!」
「じゃあ、なんで、あんなむくれた顔で座っていたのよ?」
相手を睨みながら問いかけると、彼は若干頬を赤く染めて視線をそらせる。
「は……の……で……」
「え? 聞こえない」
「は、母親の前で、好きな女とあれこれ会話なんてできるか!」
ぷいっと顔を剃らせる彼の耳が赤い。もう、誰が見てもわかるくらい赤い。
そんな彼を眺めていると、ルーナの耳まで熱くなってきた。
(……好きな女!? ど、どどどういうこと!? というか、どうすれば……!?)
二人揃って廊下でもじもじしている姿は、端から見れば滑稽に映るだろう。
しかし今、ルーナの頭は混乱の極みにあり、自分で自分を律することができずにいる。
しばらく二人であわあわしていると、廊下の反対側からエルメそっくりな青年が歩いてきた。彼の双子の兄で王太子のマルクだ。
マルクは真っ赤になって悶えている二人を見ながら不思議そうに首を傾げた。
「何やってんの? 新しい遊び?」
「そんなわけあるか!」
恥ずかしさから立ち直り始めたエルメの様子を見て、マルクは何かを察した顔になる。
「はは~ん、長年の望みが叶って浮かれモードなんだ。長かったもんねえ? 初対面の時からだから……何年?」
「こら、ばらすな!」
エルメの顔がさらに赤みを増した。
「ど、どういうこと?」
戸惑うルーナを見て、マルクは「あ~……思いはまだ通じてなかったか」と頭をかく。
「ルーナ嬢、エルメの奴は普段はもっとしっかりしているんだけど、君を前にするとポンコツになる」
「はい……?」
「こいつは幼いときから、ずっと君に片思いしてたんだよ。それで、恐ろしいナゼルバートの試練を突破して、ようやく君への縁談の打診を許されたんだ。たぶん今、すごく舞い上がっていると思う」
「片思い……?」
しっくりこない言葉だった。
「初対面の時から、ルーナ嬢はやたらとエルメにちょっかいをかけられていただろう? あれ全部、好意の裏返しだから。あの頃はエルメも子供でさ、好意の伝え方がわからなかったんだよね」
ルーナは驚いてぽかんと口を開ける。
「なっ、なっ……なにそれ……そんなの、全然知らない」
「無理に婚約しろとは言わない。でも、双子の兄として、こいつともう少しだけ話をしてやって欲しいな」
マルクは弟の肩を叩き、颯爽と廊下を去って行った。
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