第105話 究極すぎる二択(ロビン視点)

 呼び出された謁見室の中で、兵士に引き立てられたロビンは、不満たらたらな態度の王女ミーアと再会した。

 拘束こそされていないものの、後ろでは兵士が目を光らせているので下手な真似はできない。

 かつては互いに愛し合い、子までなした仲だというのに、ロビンの心は冷めている。

 もともと、ミーアの伴侶になったのは、彼女の地位が目当てだったからだ。


(でなければ、誰があんな我が儘で面倒くさい女の夫になるかっつーの! 顔と体はなかなかだけどさ! 俺ちゃんは小鳥ちゃんのほうがタイプ~)


 ちなみに、我が子の存在はロビンの頭の中から完全に消えていた。

 ロビンにとっての子供は、王配の地位を得るための道具でしかなく、生まれさえすればあとは用済みなのだ。

 王女のミーアにとっても自分の子供は、ロビンを傍につなぎ止めておくための枷でしかない。


(枷にすらならないのになあ?。俺ちゃん、子供なんて嫌いだし、赤ん坊に興味ないし?)


 どうやって言い逃れをしようかと、ロビンは考えを巡らせる。

 目の前に座った国王が、王妃と王女、そしてロビンにそれぞれの処罰を告げた。


「王妃とミーアは、身分剥奪の上、ペッペル島への追放処分とする!」


 処分を聞いた瞬間、二人から盛大な悲鳴が上がる。

 ちなみに、王妃とミーアも勝手な行動ができないよう、背後に兵士が控えていた。


「う、嘘よ! お父様! ペッペル島って、罪人を収容する島じゃない! 娘に対して、あんまりな仕打ちですわ!」

「そうだ! 妾を誰だと思っておる! そのような真似は許されぬぞ! 公爵家が黙っておらぬ!」


 二人の言い分を聞いた国王は、ゆっくりと言い聞かせるように話を続ける。

 彼の横には、いつの間にか二人の王子が立っていた。


「王妃よ、話していなかったが……二つの公爵家の当主は一足先に追放処分となった。ペッペル島とは別の島にすでに送られておる。お前たちを同じ島に置くと、碌なことにならなさそうだからな」


 デズニム国にはいくつかの離島がある。

 いずれも、罪人を隔離するための場所だった。

 二つの島は温暖で環境は悪くないが、王都でのような贅沢で先進的な暮らしはできない。

 贅沢三昧をしていた貴族にとっては、かなり辛い場所だと思われた。


(ん?! 俺ちゃんも島流しなの?!? でも、原始的な生活に目を瞑れば自由度が高いから、なんとかなるかも?)


 現地でどう動くか考えを巡らせていると、国王の目がロビンに向いた。


「ロビンよ。そなたには、二人とは別の場所に行ってもらうぞ」

「へ……?」

「そなたの行き先は、女人禁制のセンプリ修道院だ。そこで、監視されながら一生清貧に生きるといい」


 あまりのことにロビンは一瞬言葉を失ったが、我に返って大きな声で反論する。


「ええっ!? 俺ちゃんだけ、なんで!」


 聞き違いでなければ今、女人禁制の修道院などという、とんでもない言葉が聞こえた。

 男だらけの施設なんて、ロビンの行きたくない場所ナンバーワンである!


「絶対に嫌ー! せめて、女の子のいるところにしてよ?! 一生を野郎に囲まれて過ごすなんて、何を楽しみに生きていけばいいの?!」

「だからこそ、罰になるのだ」

「ふ、ふざけんなよ?!」


 こんな処分は断固拒否だと、ロビンは強く両手を握りしめる。


(撤回させるためには……そうだ!)


 咄嗟に考えを巡らせたロビンは、なりふり構わず修道院行きを回避しようと叫ぶ。


「俺ちゃんは、俺ちゃんは、王族の血を引く子供の父親なんだよ!?」


 今まで特に気にしなかった「子供」という存在を盾に、強気な言葉を続ける。


「子供には、父親が必要だってば! 俺ちゃんと離れたら、子供が可哀想だろ?!」


 これには、王女も即座に反応する。


「そ、そうですわ! 子供には親が要りますわ! 父親だけでなく、母親も!」

「祖母も必要だ! 妾も孫と離れるのは反対だ!」


 王妃まで便乗し、わけのわからない事態になってきたが、修道院行きが回避できるのならなんでもいい。

 しかし、国王の隣にいる第一王子がロビンたちの前に立ちはだかる。


「本当に馬鹿な奴らだな。散々子供を放置しておいて、今更身内面するなんて。子供のことは心配ない、乳母が養子にとって面倒を見てくれるそうだ。いつも赤ん坊を気にかけていた彼女は、お前たちよりもずっと親の役目を果たしていた」

「そ、そんなっ!」

「先日、大広間で騒ぎがあった際も、赤ん坊を守り抜いたのは乳母だ」


 王女の乳母となる人間は、それなりの身分を持つ貴族の家の出身だ。言いがかりをつけづらい。

 王妃と王女は、それ以上、何も言えなくなってしまった。


(たしか、乳母は伯爵家出身の夫人で、俺ちゃんの子供と同い年の女児がいたんだよね。王族でなくなったとしても、子供に苦労はないだろうけど……それじゃ、俺ちゃんが困るんだよな)


 なんとか逃げたいが、魔法は事前に封じられてしまっている。絶体絶命だった。

 勝ち誇った表情を浮かべる王子が憎い。


「くぅ?っ!」

「ははは、煩悩まみれのお前には辛い措置だろうが、去勢されるよりはいいだろう」

「えっ!? 去……!?」

「一部の過激な貴族からは、そういう要望も出ていた。主に妻にちょっかいをかけられたり、婚約者を誘惑されたりした貴族からな。さすがにそれはと思い、却下したが……そっちの方がよいなら、そうするが?」

「ぴいっ!?」


 ロビンは慌てて大事なところを両手でガードした。

 そうして、すっかり大人しくなったロビンは、数日後には滞りなくセンプリ修道院へ移送されたのだった。


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