第7話
その声に、開いた口をつぐんだ僕は強く歯を噛み合わせた。怒り、後悔、絶望、いくつもの感情が僕を責め立てる。
不快な静寂が電話越しに僕と彼女の距離を遠ざけるように広がっていく。
「ねぇ、何か喋ってくれない?」
「あ、うんごめん……その、ごめん」
僕は、何を話せばいいのかわからなかった。彼女の声を聞いた途端、話そうと考えていた言葉は泡のように弾け、消え失せてしまった。何故なら僕の頭の中にある言葉は、自分勝手な独りよがりだと一瞬で理解できたからだ。
「何が?」
聞いたこともないような低い声がした。それが彼女の声だと理解するのにわずかな時間を要した。
彼女から熱を微塵も感じなかった。
「全部」
だからこそ僕は本当にそう思った。
わずかな間が生まれ、そこに彼女の声がこぼれ落ちるように静寂を裂く。
「なんで?」
彼女のその問いが、なにを意味しているのかが僕にはわからなかった。
「なんでって……そんなの……」
その続きを、言葉にできなかった。その先には、終わりしか待っていない。だけどそれは――。
覚悟していたはずなのに、いざとなると僕は逃げてしまった。
僕は、君を失いたくなかった。
彼女のこんなに悲しい声を聞いても、どれだけ自分が酷いことをしたのかを理解しても、僕はまだ君を好きなままで、それはどうにもならないことのようだ。
こんなに醜い僕を、君は今どう思っているのだろうか。
ただただ沈黙が、ゆっくりと僕らを蝕んでいった。
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