第5話

 夏祭が終わり、翌日の日曜。

 僕は目が覚めてもベッドから起きることはせず、真っ暗な携帯の画面を眺めていた。あれから、電源をつけていない。

 窓の外には皮肉のように曇ひとつない空が広がっている。僕は、差し込む光をカーテンを閉めて遮断した。なにか、責められているような気がしたのだ。

 その日、僕は家から出かけず一日のほとんどの時間を自室にこもり過ごした。本を読んだり、ネットを眺めたり、何をしても時間の進みが遅く、地獄のような日曜がやっとその幕を降ろす準備を始めた。窓の外には夜が広がる。

 カーテンを開けると、月明かりが薄っすらと部屋に明かりを差す。今朝とは違い、嫌な感じはしない。少しだけ、心が落ち着くような気がした。そこで携帯の電源をつけていないことを思い出した。いや、僕はわかっていたんだ、そんなこと。逃げていた現実とようやく向き合う覚悟を決めたのだ。


 電源を入れると、携帯はけたたましく振動し、これまでの着信や通知を吐き出した。

 不在着信53件、未読通知23件。

 未読のメッセージを開くのが恐かった。何が書いてあるのか、どう責められているのか、彼女はきっと怒っているはずだ。

 未読のメッセージを一つずつ読んでいく。読み進めるほどに胸が締め付けられていった。

 心配と謝罪の山に、スマホを持つ手が震えた。そして最後のメッセージが目に入ると、世界が終わったかのような衝撃が体を突き抜けた。



[何で……もう……いやだ……]





 僕たちは、初めから終わりまで僕が君の愛想を尽かせてばかりだ。始まりは君の手を取れたけど、今回の僕に君の手を取る資格はない。

 それでも、話さないと、言葉にしないと、このままじゃダメだ。僕はまだ、謝ってもいない。せめて君を傷つけたことを悔やんで、反省して、謝って終わりにしよう。

 泣けるような立場じゃないのはわかっているけど、嗚咽は収まるどころか激しさを増す。彼女が自分にとってどれだけ大きな存在だったのかを思い知らされた。

 僕は、あふれる涙を止める術がわからなかった。こんなに涙が出るなんて僕は知らなかった。

 僕は感情も思考も制御できず、情けなく泣き崩れた。あの日も、彼女に告白される直前も、僕は情けなく泣いていたことを思い出してしまった。



 いっそこの夜の闇に埋もれて消えてなくなりたいとすら思えた。


[つづく]

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