第4話運命のカードを引くには


 「私は豊田涼子とよたりょうこ。菊池健一、私はあなたの事が気に入ってるの付き合いなさい」


 「菊池君、本田明美ほんだあけみです。私ずっと好きだったの。お願い、私と付き合って」


 「あんた、何考えてるのよ!」



 菊池健一きくちけんいちは幸福と修羅場を同時に味わっている。


 美人三人(一応鈴木麗菜すずきれいなも入れる事とする)にゼロ距離で胸を押し付けられ男子高校生の夢を叶えられたのだがますますヒートアップする三人のプレッシャーが凄まじい。



 「え、えっと、三人とも少し落ち着くんだぞ?」



 思わずそう言う菊池健一だが三人がそんな言葉を聞くはずもない。



 「何言ってるのよ、この私が付き合えって言ってるのよ? 即答yesでしょ!?」


 「き、菊池くぅうん」


 「いい加減にしなさいよ、あんたねぇ!」



 うれしい事に女の子に引っ張られまくる。

 うらやましいぞ菊池健一!


 しかし当の本人はそれどころではない。

 だがこの男、菊池健一は欲望に忠実な男。

 ここで妙案を思いつく。



 「な、なあ、それじゃあみんなで付き合っちゃおうか?」



 「菊池健一!」

 

 「菊池君!」


 「あんたねぇっ!!」


 思い切り三人ににらまれる。




 「分かっていないようね菊池健一、私はただ付き合えと言っているのではないのよ? あなたには私の婿として栄えある豊田家に婿養子で迎え入れると言っているのよ?」


 豊田涼子の実家は有名な財閥で逆玉の輿は確定だ。

 当然菊池健一もそれは知っている。


 ごくりとつばを飲んでしまうのも当たり前だろう。




 「菊池君、私菊池君のためなら何でもします。は、初めてだって菊池君がしたい事だってなんでも受け入れますよ‥‥‥////」


 もう理性を保つのが限界になってしまいそうだ。

 上目づかいで上腕で寄せてはさみちらみせ甘い声でそんな事を言われたらどんな男だって落ちてしまう。

 ましてや元気すぎる高校生男児、いきなりそんな事言われれば妄想して鼻血が垂れて来ても仕方ない事だ。




 「ちょ、ちょっと本気なのあんた?」


 対して幼馴染の鈴木麗菜は若干冷静だ。

 だが菊池健一の腕にずっと抱き着いたままその薄い胸に押し付けて放そうとはしない。



 「ま、参ったなぁ、は、はははははははぁ‥‥‥」


 ここへきてやっと事態の重要性を把握はあくした菊池健一。

 自分がすでに逃げられない選択肢運命の分岐路に立たされている事に気付く。



 「菊池健一」


 「菊池君」


 「あんたねぇ‥‥‥」


 

 催促さいそくされる菊池健一。

 そんな彼に妙案が浮かぶ。



 「な、なあ、俺にラブレターくれたんだよな? えっと、ラブレターってさ全部名前が書かれて無くって、で、どれが誰のだか分からないんだよな」



 「今更そんなものどうでもいいでしょう?」


 「ちゃんと告白しました、菊池君」


 「なっ、ラ、ラブレターはぁ‥‥‥」



 不満げな豊田涼子と本田明美。

 しかし菊池健一はここぞとばかりに言い放つ。



 「好意はうれしいがなんでみんなラブレターに名前書いてないんだ?」


 「わ、私とした事が舞い上がって忘れたなんて言える訳ないでしょ!」


 「菊池君のこと思い過ぎて、でも今日会えば分かると思って」


 「あ、あたしじゃないわよ、そ、そんな恥ずかしい事書いてないもん!」



 と此処ここでこの後に及んでまだ白を切るのが一人いる。

 と言うか、言動でやっぱり書いているじゃないかと分かってしまう。



 「とりあえずだな、三つとも色々書いてあった。どれが誰のだか教えてくれないか?」


 とにもかくにもこの場の雰囲気ムードと彼女たちの真剣さに押され一旦距離を取りたい菊池健一は苦肉の策でもう一度ラブレターの話を持ち出すのだった。



 全く、態度の割に優柔不断な煮え切らない野郎だったのだ。 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る