第十七章

 頭の中で堂々巡りばかりしていた亜美は、一人で悩むことをやめて誰かに相談することを思いついた。一瞬脳裏に浮かんだのは、加世の顔だった。

 しかし彼女より先に話しておかなければならない人がいる。それは兄の卓也だ。あの事件が起きた時、遠くで様子を見ていた彼が警察を呼んでくれたおかげで、最悪の事態を免れることが出来た。

 だが兄もまた犯人の顔などをしっかり見たわけではない。亜美と同じく裁判で証人として呼ばれ、犯人が出頭した奴らかどうかの確認をされたが、自信を持ってそうだと答えることはできなかったはずだ。

 警察はもちろん、弁護についてくれた人からも、父を含めた三人は事前に何度も尋ねられた。そう言えばあの時、兄は何となく違う気がすると呟いてはいなかっただろうか。

 しかし状況から判断して、亜美と同じく否定することも出来ずに良く分らないと首を横に振った気がする。それに兄は亜美の為にも早く裁判を終わらせたかったに違いない。

 未遂だったとはいえ、男達に襲われたことであの頃の亜美の心には大きな傷が残った。だから裁判が長引けば、いつまでも悪夢にうなされると心配してくれていたからだ。そしてその後の父の世話や会社を畳む整理などを、全て取り仕切ってくれたのである。

 そんな兄も亜美が一念発起して福祉系高校への入学を決め、その後介護士になり社会人として自立できるようになってからは、徐々に父の事は亜美に任せきりになっていた。

 何か特別なきっかけがあった訳ではない。何となくある時期から兄は父や亜美と距離を置くようになったのだ。特にここ二、三年は余り顔を合わしていない。連絡もほとんどしていなかった。 

 亜美はそのことについて深く考えたことはない。ただ兄もその頃は三十手前だったが、結婚話どころか彼女がいる話すら聞いたことはなかった。

 だからなんとなく一人で生活していくだけで必死なのだろうと考え、また父の面倒など長く看てきて疲れてしまったのだと案じていた。そこで父の世話は自分がすればいいと思うようになったのだ。 

 その為電話番号やメールアドレスの変更は伝えたが、転職について知らせてはいなかった。心配をかけたくなかったこともあるが、今の仕事内容を教えれば間違いなく叱られるに違いない。また昔の悪い亜美に戻ったのかと呆れられるのが怖かったのだ。

 しかしこの問題についてだけは、伝えなければならない。父や亜美のように直接の被害を受けなかったが、あの事件のせいで兄の人生は大きく変わることを余儀なくされたのだから。

 事業主と雇われる側では立場が大きく違う。しかも兄は今や単なる一店員に過ぎない。独り身とはいえ、生活もそれほど楽ではないはずだ。その上足助兄弟とは幼い頃から因縁があり、よく絡まれ苛められていたこともある。そんな相手が自分達の生活を一変させる原因を作った真犯人だと知ればどう思うだろうか。

 激情するかもしれないが、厄介な相手だと知っている為関わり合いたくないと思うかもしれない。昔の事だから忘れようと亜美を説得し、黙殺しようとしてもおかしくなかった。相談すれば単に兄を悩ますだけで終わる可能性もある。

 だが亜美は一度相談だけでもした方が良い気がした。自分だけで抱え込むには大きすぎる話だからではない。虫の知らせとでもいうのだろうか、直感的にそう感じた。

 そこで夜七時に仕事が終わり、次の日は休みに当たる日を選んで兄へ連絡を入れることにしたのである。念のため一晩だけなら外泊できる程度のお泊りセットを用意しIR施設の外に出てから、個人の携帯を使った。公衆電話を使うことも考えたが、逆に怪しまれて着信拒否されても困ると思ったからだ。

 兄の勤務時間は朝早く夜も遅いはずだが、営業時間は朝九時から十一時までの為、亜美のような二十四時間勤務ではない。それでも以前二交代制だと聞いたことがある。朝八時から夕方六時と、夕方四時から夜十二時までだったはずだ。

 電話をかけたのは夜の九時過ぎだ。休みの日や午前からの勤務なら起きている時間だろう。夕方からの勤務ならまだ仕事中の為、その時は留守番電話にメッセージを残そうと思っていた。

 話すのは久しぶりだから、とても緊張した。コール音が鳴る。三回ほど続いたので、留守番電話はセットされていないようだ。後は起きているかどうかである。更に呼び出し音が続いたが、なかなか出ない。どうしたものかと考えていた所でようやく出た。

「はい」

 兄だ。しかし何故か名乗らなかった。そこで亜美から話しかけた。

「もしもし、亜美だけど。お兄ちゃん、今電話して大丈夫?」

「大丈夫だけど、どうした? 親父に何かあったのか?」

「ううん。お父さんは相変わらず。何もないよ。今日は仕事、お休み? それとも終わった所?」

「終わったよ。今は風呂から上がって晩飯を食べ終わった所だ」

「じゃあ明日は朝から?」

「いや、夕方からの勤務だ。それより何かあったのか」

「ちょっとね。実は相談したい事があって連絡したんだ。電話だと何だから会って話がしたいんだけど、いつだったら都合がつく?」

「急ぐことなのか。亜美はどうだ?」

「私は今日の仕事が終わって明日は休みだから、兄さんに合わせる」

「いつもなら朝寝て昼過ぎに起きるか、早めに寝て朝起きるかだけど、亜美が明日休みなら今から家に来るか? 予備の布団もあるし」

「今も会社の寮にいるんだよね?」

 兄と別々に暮らし始め亜美が就職した直後までは、何度か一LDKの部屋へ泊まりに行ったことがある。それでもここ数年はない。亜美の住んでいた部屋に、兄は一度昼間に様子を見に来ただけで泊まったことは無かった。女性専用のマンションだったこともあり、遠慮したのだろう。

「もう十年になるな。古くなってはいるが、慣れたせいか居心地は悪くない。亜美も前と同じマンションなんだろ。それとも彼氏ができて、引っ越しを考えているとか言うんじゃないだろうな」

 ドキリとした。亜美が既に引っ越してIR施設の寮に入ったことは、父や兄にまだ知らせてない。 

「そういう話じゃないよ。だったら今からそっちへ行っていい?」

「ああ、いいぞ。飯は食べたか?」

「うん。もう済ませた。でも明日の朝ごはんとかいるでしょ? 途中で何か買っていくよ。必要な物があったら言って」

「特にないから、亜美が欲しいと思う飲み物や食べ物を買ってくればいい。お金は俺が払うよ」

「いいよ。私だって働いているんだから自分で払うって」

「だけど親父のことで色々金がかかっているんじゃないか。俺は最近顔を出していないし亜美に任せっきりだから、申し訳ないとは思っているんだ。それぐらいさせてくれ」

 急に声のトーンが落ち込んだ兄に驚いた。どうやら引け目を感じているらしい。だがそれが分かっただけでも亜美には十分だった。

「いいの。お金はお父さんがしっかり持っているから、問題ないよ。じゃあ後一時間もしない内に着けると思う」

「分かった。夜遅いから気を付けろよ」

「うん。ありがとう」

 そこで電話を切り兄の住む寮の最寄り駅へ向かう地下鉄に乗った。そして下車した後、途中にあるスーパーに寄って買い物を済ませた。その道中、どうやってあの件を切り出そうかと考えていた。

 介護施設を辞め、カジノで働き始めた事も説明しなければならない。それらを聞いて、兄はどういう反応を示すだろうか。憂鬱になりながらも相談すると決めた事だ。今更引き返すことは出来ない。改めて勇気を振り絞った亜美は、兄の待つ部屋へと向かった。


「久しぶり」

「よく来たな。早く上がれ」

 しばらく会っていなかったが、兄の様子はそう変わらなかった。部屋も綺麗とは言わないが、それなりに片付いている。以前寝泊まりしていた頃と同じ匂いもした。だから何となく懐かしい。

 しかし互いに気恥ずかしさは残っていた。その為か亜美が買ってきた物を渡すと、兄は直ぐに受け取り冷蔵庫に入れるものとそうでないものをそそくさと分け、飲み物を出してくれた。

 その間に亜美はリビングの隅へと荷物を置いた。そしてダイニングに備えらえていた椅子へと座り、二人用の小さなテーブルに肘をつきながら、所在無げに部屋を見渡す。しばらくして兄も向かい合わせに置かれた椅子へと腰掛けた。

「懐かしいだろ」

「そうね」

などと他愛もない会話をしつつ、緊張をほぐしていく。特に兄は何やら落ち着かない様子だった。急に連絡を寄こして相談があると言い出したことで、何を言われるのかと身構えているようだ。

 そうした気まずい雰囲気に亜美も飲まれ、前もって用意していた言葉がなかなか出て来ない。ぎくしゃくして微妙に噛み合わない状況に、業を煮やしたのは兄が先だった。

「それで、俺に相談したい事っていうのは何だ?」

 ストレートに聞かれ亜美は、戸惑いながらも答えた。

「実はね。最近会ったの。お兄ちゃんは覚えている? 足助兄弟の一番上と二番目の人のこと」

 兄の顔が急に青ざめ、やや震えた声で言った。

「お、お前、あの二人を知っていたのか?」

 突然の変貌ぶりに驚きながらも、亜美は首を振って答えた。

「知っていた訳じゃない。というか顔をしっかり見たのはこの前が初めて。それが足助兄弟の天馬と大地という人だと分かったのは、他の人から聞いたからなの」

「どこで会った?」

 畳み込むように尋ねてくる兄の目つきが、徐々に怖くなった。これは怒られると覚悟しながら亜美は言った。

「実は私、数カ月前に勤めていた介護施設を辞めたの。ちょっとしたトラブルがあってね。それで再就職先を探していたら、直樹さんにIR施設での働き先を紹介してもらったの」

「直樹って、あの真壁直樹か」

「そう。お兄ちゃんの同級生で他の介護施設で働いている、あの直樹さん」

「じゃあ、そのIR施設で足助兄弟と会ったのか?」

「う、うん。そう」

 そこで少し落ち着きを見せた兄は腕組みをし、何か考えるような仕草をして言った。

「なるほど。それで奴らと会ってどうした?」

 亜美は唾を飲み込んだ。ここからが本題である。深く息を吸い込んで落ち着かせてから告白した。

「あのね。一番下の学人さんは、以前見かけた事があって名前も顔も分かるけど、あの二人の事は名前しか知らなかったはずなの。でもこの間、数メートル先に彼らが他の人と話している声と姿を見ただけで、体が震えてしばらく止まらなかった。私、あの人達と会ったことがある。多分それは昔襲われた時だと思う」

 兄は目を見開き、テーブルに身を乗り出して言った。

「お前、思い出したのか?」

 その威圧感に一瞬気圧された亜美だったが、勇気を振り絞って説明した。

「思い出したというか、体が反応したの。それにあの一番上の天馬という人の声と、最初にかけられた声が同じに聞こえた。あの時顔は見てないけど、私の服を脱がそうとしていた男の内、一人は体が大きく、一人は細身だったことは覚えている。その二人が放っていた雰囲気というかオーラが、あの二人と全く同じだったの」

「それは間違いないか。あの時逮捕された奴らとは違うんだな?」

「何の証拠もないけど、間違いないと思う。多分、あの時出頭した人達は見代わりだったんじゃないかな。もしかすると、実際あの集団の中にはいたのかもしれない。でも私を押し倒して、止めに入ったお父さんをボコボコに殴ったり蹴ったりしたのは、あの二人だったと思う。あいつらならお金を持っているし、権力もある。身代わりを立てて賠償金を支払う位の事はできたはず。絶対そう。あいつらが私達の家庭を壊したのよ」

 そこまで一気に喋った亜美をじっと見つめていた兄は、思いがけない言葉を口にした。

「やはりそうだったのか」

 亜美は耳を疑った。そして尋ねた。

「やはりって何? もしかしてお兄ちゃんは気づいていたの?」

「最初から気づいていた訳じゃない。だが取り調べが始まってから、ずっと疑ってはいた。俺は事件現場で、少し離れた場所にいたから良く分らなかった。だけどあの時一番暴れていた二人は、果たして出頭した奴らだったのか、ひっかかりを感じていたことは確かだ」

「でもそれが足助兄弟だとどうして分かったの? お兄ちゃん、今言ったよね? やはりそうだったのかって」

 少し躊躇いながらも、兄は説明してくれた。

「実はこの十年間、俺は裏で本当は別に犯人がいるんじゃないかと疑っていたんだ。パチンコ店の客には、色んな奴らがいる。その中には悪さをする者も少なくない。うちの店が潰れてから、俺が別のパチンコ店に勤めた理由は、それまでの経験があったからだけじゃない。そうした店には、それなりの情報網があることを知っていたからだ。親父だって、暴力団の何人かとは顔見知りだったからな」

「そうなの?」

「ああ。だから親父があんな目に遭ったと聞いて、そういう人達は直ぐに犯人を探してやると俺に言ってくれたんだ。でもその後奴らが警察へ自首したから、その時は手を借りずに済んだんだ」

「その時は、ってどういう意味?」

「自首してきた奴らが真犯人なのか疑い出した時、裏で別の人間が身代わりを立てたんじゃないかと俺が口にしたら、その人達は調べて見ると言ってくれたんだ。しかし結局何も情報は得られなかった」

「だったら、いつ足助兄弟が真犯人らしいと気付いたの?」

「数年前だ。裁判で刑務所に送られた主犯格の二人の内一人が出所したという話が耳に入った。そいつを少年Bとしよう。奴らは未成年だったから、早めに出て来られたようだ。しかしそこで妙な噂を聞いた」

「噂って、どんな話?」

「未成年だから名前は外に出ないが、普通は様々な形で周りの人が気付く。だから社会復帰するのもなかなか難しいのが現実だ。それで更生出来ず昔の悪い仲間達とつるんで再犯し、捕まる奴らは多い。しかしそいつは違った。直ぐに大きな会社の関連会社で職を見つけ、真面目に働いているというんだ。それだけじゃない。ムショ帰りの奴が稼げるような額ではない、高給取りになっていると聞いた」

 亜美も徐々に話が見えてきた。

「もしかして、それが足助不動産の関連会社だったってこと?」

「ああ。しかもよく調べて見ると、そいつの父親も別の関連会社で役職に就いているらしい」

「親子揃って、足助不動産の言いなりになった訳ね」

「もしかするとそうかもしれないと思ったが、まだ確証はなかった。しかしその後もう一人の主犯格だった少年Aも出所し、Bとは別の関連会社で同じ扱いを受けていると分かった時、確信したよ。しかもAの親父も足助不動産の関連会社で役員になっていた。これは偶然じゃなく、必然だと思ったさ」

「どうして今までそれを黙っていたの?」

「何の証拠も無いからだ。それに俺が調べ始めた頃から、周りに奇妙な事が起こり出した。恐らく余計なことに首を突っ込むなという、足助兄弟からの警告だったのだろう。だから俺は親父の見舞いにも行かなくなったし、お前ともなるべく距離を置くようにした。また二人に危害が及んだらまずいと思ったからだ」

「調べ始めたって何を? 妙な事って?」

「亜美を襲った犯人達が足助兄弟なら、何か理由があるはずだと探ってみた。出頭した奴らは日頃から目立っていたお前が気に食わないと思っていた所、あの日たまたま出会ったから襲ったと証言していただろ。しかし男達は、車を事前に用意していた。しかも盗難車だ。襲撃したのは以前から計画していたんじゃないかと、当時の警察も疑っていたことを覚えているか?」

「そういえば、そんなことを言っていたね」

「しかもあの日、相手は“お前が亜美だな”と声をかけてから一緒にいた後輩共々、無理やり車へ乗せたんだったよな」

「うん。間違いなくそう言った。それが足助天馬の声とまるっきり一緒だと思ったから、あいつらが真犯人だと思ったの」

「しかし出頭した奴らは、たまたま盗んだ車に乗って走っていたと言い張った。警察もそれを覆す証拠が無かった。奴らと亜美達を結ぶ接点を発見できなかったらしい。当時亜美はレディースにいたから、敵対する同じような女性のチームとはトラブルが絶えなかったが、男の走り屋達と揉めたことはなかった。そうだろ?」

「う、うん」

 過去の恥ずべき時代を思い出し、亜美は俯きながら答えた。

「だから警察はお前と揉めたレディースが、亜美に痛い目を合わせようと男達に頼んだんじゃないかと睨んでいた。しかし亜美を恨んでいるレディースは数人程いたようだが、そいつらと出頭した奴らとの繋がりがどうしても見つからなくて諦めたようだ」

「そうだったね。裁判の途中でもそのような話が出ていたと思う」

「だけど真犯人が別にいたとしたら、話は変わってくる。しかも足助兄弟と亜美とは、当時直接の接点なんかなかったはずだ。つまり当時亜美を恨んでいたとされるレディースと足助兄弟との間に、何らかの接点があるんじゃないかと思った。それを明らかにしようと調べ始めていた所、問題が起こり始めた」

「何が起こったの?」

「最初は俺の携帯に、無言電話がやたらかかってくるようになった。そして俺が勤めているパチンコ店で、客が騒ぎだすトラブルが増え始めた。直接俺に絡んでくる奴らもいたよ。それがエスカレートして、俺の部屋の窓ガラスが石を投げられて割られたり、駐車場に停めていた俺の車がボコボコにされたりもした」

「そんなことまで?」

「ああ。もちろん警察に被害届は出したさ。でも犯人は未だに捕まっていない。そこで俺はようやく気付いたんだ。亜美を恨んでいたレディ―スの中に、足助兄弟と繋がりのある奴がいると分かって調べ出した頃から、問題が起き始めた。だからこれは脅しだと思って、それ以上調べることを辞めたんだ。そうしたらトラブルは嘘のように治まった。それで確信したよ。あの時の真犯人は足助兄弟だと。だけどそれ以上動きようも無くなった」

「誰なの? 足助兄弟と繋がっているレディ―スって?」

「昔、お前のいるチームと集団でぶつかって大乱闘になった時、一人病院送りにしたあずさという女がいたじゃないか。そいつだよ」

 思い出した。確か向こうから手を出してきて、十数人同士で殴り合いになったことがある。その時得意の後ろ回し蹴りを使った所、彼女のこめかみにヒットしたのだ。その衝撃により梓は地面に倒れて気を失った。そこで相手チームが驚いて救急車を呼んだため、喧嘩は治まった。もちろん亜美達は直ぐにその場から立ち去ったのだ。

 その後彼女は脳震盪のうしんとうを起こしていて、病院に運ばれしばらく検査入院をしていたと聞いた。幸い脳に異常はなく大事には至らなかった為、警察沙汰になることは避けられた。

 相手も自分達から喧嘩を吹っかけた手前、被害届を出すような恥晒しな真似は出来なかったのだろう。バイクを運転していて転倒し、頭を打ったことにしたと聞いている。おかげで亜美は、前科者になることを避けられた。

 それどころかその乱闘騒ぎを収めた一番の貢献者として、亜美の株はさらに上がったのだ。逆に気を失った梓は特攻隊長だったらしく、醜態を晒したとして隊長の座から落ちたという。その後居づらくなったのか、チームから抜けたらしい。

 それが原因で彼女は足助兄弟に泣きつき、亜美を痛い目に遭わせるよう依頼したのではないか、と兄は睨んでいるようだ。その証拠に、梓は今も足助不動産の関連会社に勤めているという。

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